前ページまでのあらすじ
前ページまでで,1年前との比較検証は
ひと通り終了しました。
無料で公開されているチャットAIたちの数学推論能力が
全体的に高まっていることは確かです。
ただし,正式に採点対象とした5問は,
AIたちの思考を特定の方向に誘導しないように
質問文を整えたものです。
一方で,学習者からの質問文が
いつもそのように整っているとは限りません。
整った質問にいくら正確に答えられても,
学習者から若干的を外した質問が来た場合に
回答が大きく乱れるようでは,
数学の相談相手としてはやはり危ういと
言わざるをえないでしょう。
ここでは,延長戦として問6を用意し,
AIたちがそういった脆弱性を
見せないかどうかを試してみたいと思います。
問6(問2の亜種)
質問内容
$\rm\triangle ABC\;$の角$\;\rm A\;$の二等分線と辺$\;\rm BC\;$の交点を$\;\rm D\;$とします。
このとき,$\rm BD=CD\;$となるならば,
$\rm\triangle ABC\;$は二等辺三角形であることを,
中学数学の範囲で証明したいと思います。
(角の二等分線と線分の比に関する定理は
高校範囲なので使用不可です。)
直線$\;\rm BC\;$について点$\;\rm A\;$と対称な点$\;\rm E\;$をとり,
その点をうまく使えないかと考えているのですが,
できそうですか?
入力文:
△ABCの角Aの二等分線と辺BCの交点をDとします。
このとき,BD=CDとなるならば,
△ABCは二等辺三角形であることを,
中学数学の範囲で証明したいと思います。
(角の二等分線と線分の比に関する定理は
高校範囲なので使用不可です。)
直線BCについて点Aと対称な点Eをとり,
その点をうまく使えないかと考えているのですが,
できそうですか?
この質問は,問2の亜種ですね。
図1

二等辺三角形かどうか分かっていない$\;\rm\triangle ABC\;$において,
$\;\rm\angle\,A\;$の二等分線と辺$\;\rm BC\;$の交点をとってみると,
辺$\;\rm BC\;$の中点になりましたと。
問2では,この$\;\rm\triangle ABC\;$が二等辺三角形であると
言えるかどうかをAIたちに判断させました。
今回の問6では,二等辺三角形であることを証明したいと明言しつつ,
このように解きたいと解法の要望を伝えています。
具体的には,直線$\;\rm BC\;$について点$\;\rm A\;$と対称な点$\;\rm E\,$$\,$を
使いたいという要望です。
図2

質問の意図
問6の要望に従うと,よく知られている他の解法に比べて,
難易度がかなり上がると思われます。
そのような要望にうまく対応できるかを見るために
作成した問いです。
詳しくはサブ記事で
問6に関する説明や各AIからの回答,
および採点結果については,
下記のサブ記事をご覧ください。
問6 採点結果
各AIの得点
問6における各AIの得点は
次のようになりました。(※10点満点)
【問6の結果】
| 参加AI名 | 問6の得点 |
|---|---|
| Gemini-N | 10点 |
| Gemini-T | 9.5点 |
| DeepSeek-T | 5点 |
| MathGPT-N | 1点 |
| ChatGPT-N | 0点 |
| ChatGPT-T | 0点 |
| Copilot-N | 0点 |
| Copilot-T | 0点 |
| Perplexity-N | 0点 |
| Claude-N | 0点 |
| Grok-N | 0点 |
| DeepSeek-N | 0点 |
【問2の結果】(参考)
参加AI名 問2の得点 ChatGPT-T 10点 Gemini-N 10点 Gemini-T 10点 MathGPT-N 10点 Claude-N 9.5点 DeepSeek-T 9.5点 DeepSeek-N 7.5点 Perplexity-N 3点 ChatGPT-N 2点 Copilot-N 2点 Copilot-T 1.5点 Grok-N 1点
- 問6のもととなった問2の結果を併記しています。
「サービス名-N」は熟考機能オフ,
「サービス名-T」は熟考機能オンです。
より正確な意味については,
当記事の2ページ目をご覧ください。
平均点
問6の平均点は次の通りです。
| 問6 | 問2 | |
|---|---|---|
| 全参加AIの平均点 | 2.13 点 | 6.33 点 |
| 高速モデル (-N) の平均点 | 1.38 点 | 5.63 点 |
| 熟考モデル (-T) の平均点 | 3.63 点 | 7.75 点 |
問6 総評・所感
Gemini 以外ほぼ全滅
いやあ,AIはこういうミスリード(誤誘導)に
弱いんじゃないかと思ってはいましたけれども。
ここまでボロボロに崩れるとは予想しませんでした。
平たく言って, Gemini 以外ほぼ全滅ですね。
大半のAIは,問6で示された要望に応えようとして
無理な証明手順に入り込み,その途中で
正しくない推論を正しいかのようにごまかしてしまいました。
正式参加外のAIについても
回答を採取して採点しましたので,
ご興味のある方は問6のサブ記事にてご確認ください。
問6は,もととなった問2に比べると
はるかに採点基準が厳しいので,
得点の単純比較はできません。
しかし,問2は解けていたAIが
問6ではあえなく間違えたケースが多発したことは,
この採点結果から一目瞭然でしょう。
なぜAIは問6が苦手なのか
よく知られるチャットAIの欠点
数学の質問に限らず,
多くのチャットAIに次の2つの欠点があることは,
広く知られていると思います。
本検証では,1年前の記事も含めて,
AIは数学において
分からないことを分からないと言えない
ことを問題視してきました。
この問題点は,上記の (1) と同一視してもよいと思います。
どちらも,不確かなことを確かであるかのように
述べてしまうという意味で共通しているからです。
(2) については,筆者も普段AIを使っていて,
そのような傾向がありそうだと感じてはいました。
ですので,個人的にAIを利用する際も,
なるべくAIに賛同を求めないよう心がけています。
本検証の問1~問5においても,AIに先入観を持たせず,
AIの見解をそのまま引き出せる質問文になるよう
留意しました。
そこで問6
そこで問6の登場です。
この視点で問2を改造したのが問6です。
先に述べたように,AIは人の意見に同調しがちです。
言い換えれば,人の意見に引きずられがちです。
そうでなくとも,AIはなるべく
質問者の要望に応えようとするものでしょう。
かつ,以前から指摘しているように,
AIは平気で嘘をつきますし,
分からないことを分からないと言えません。
以上を踏まえ,次の仮説が浮上してきました。
そして結果はご覧の通り。
想像以上の壊滅状態が現出したわけです。
これは意地悪な実験ではない
問6は別に,AIの欠点をあげつらうための
意地悪な実験ではありません。
AIを数学の学習相談相手として活用するなら,
学習者がこの程度に,あるいはこれ以上に
的外れな質問をするケースはいくらでもあるはずです。
学習途上の学生などから数学の質問を受けるAIは,
整った質問に正しく応答できればよいわけではないのです。
問6程度のミスリードに対応できず,
間違った理論・推論をもっともらしく語ってしまうAIは,
数学の相談相手としてはおすすめできません。
巷では,AIは東大入試の数学で
満点を取るまでになったと言われますが,
入試問題は,整った質問の最たるものです。
というのは,根拠のない思い込みであると
言わなければならないでしょう。
無料AIの中では Gemini Pro は別格かも
それでも Gemini はだまされない
それにしても, Gemini の堅牢さには驚かされます。
もともと,この問6は,
と考えて作った問いです。
完璧でないAIを完璧であると誤認するのは
非常に危ういことです。
なかなかボロを出さない Gemini-T ですが,
もし完璧でないなら,
完璧でないことを証明して見せておきたいのです。
そういった目的で問6を作り,AIたちに投じてみると,
標的にしていた Gemini は高速モデル Gemini-N も含めて
良い応対ができた一方,
他のAIがほぼ全滅してしまったわけです。
個人的には,期待外れなのか期待以上なのか,
よく分からない結果でした。
Gemini Pro の信頼性は非常に高いと言わざるをえない
Gemini-N は,他の問いで結構間違えているので,
完璧にほど遠いことは確かなのですが,
Gemini-T(= Gemini Pro ) が完璧にほど遠いとは
断言できなくなってきました。
前掲の得点一覧表にある通り,
Gemini-T の問6の結果は9.5点であり,
満点(10点)ではありませんが,
筆者は,目くじらを立てるほどの
ミスではないと考えています。
各AIには問1~問6以外の問いも多数投じていて,
中には間違えやすくなるよう罠を張ったものもありました。
それらの問いに対し,各AIが結構な確率で間違える中,
Gemini Pro だけはほとんど間違えないのです。
当記事執筆時点(2026年 6 月)の現状では,筆者が知る限り,
と考えてよさそうです。
1年前は,Gemini も含めて,
数学教育に使うにはまだまだ早いと即断できましたが,
これだけ高い正確性を見せつけられたからには,
実用に堪えるかどうか迷う水準も通り越して,
実用に堪える水準に達したと考えるべきでしょう。
完全無欠でないことは頭に入れておくべき
ただし,Gemini Pro もやはり完璧ではありません。
Gemini Pro が数学的におかしな論理や見解を
述べたケースも少数ながらありましたし,
図示・図解は動作や精度が不安定です。
現状の Gemini Pro を数学教育に活用される際は,
次のような感覚で臨まれると良いかと思います。
Gemini Pro の現状については,
次ページでも軽く触れます。
次ページの内容
当記事のまとめとして,
チャットAIたちの1年分の進化を踏まえ,
数学教育におけるAIとの向き合い方について考えます。