前ページまでのあらすじ
広く使われている無料AIの数学推論能力について,
1年前との比較検証を行ってきました。
その結果,AIたちの能力が全体的に
伸びていることは確認できましたが,
解法をちょっと誤誘導する質問を出してみると,
簡単にだまされてしまうAIが多いことも判明しました。
当ページでは,1年前と今回の検証結果を踏まえ,
現在および未来のAIの能力や
数学教育へのAIの活用について,
2026年 6 月時点における筆者の見解をまとめたいと思います。
1年前と現在の類似点・相違点
ほとんどの無料AIが
能力的に不十分であることは変わらない
もともとは,ChatGPT の最先端モデルが
東大入試の数学で満点を取ったというニュース(2026年 4 月末)を受けて
急遽行うことにしたのが今回の検証です。
1年前(2025年 5 月)に筆者が行った独自検証は,
無料で使えるチャットAIの数学推論能力は
まだまだ全然であり,
数学教育に活用するには早い
と即断できる結果でした。
これは,1年のずれがあるとはいえ,
前記のニュースとはだいぶ食い違う結論です。
そこで,1年前の検証と全く同じ問いを
無料AIに投じて回答を採点し,
1年前の結論が今も有効であるかを確かめるのが
今回の再検証の趣旨です。
そして実際に検証を行った結果,
全体的に1年前より推論能力が伸びているのは確かですが,
結論としては次のようになります。
信頼できる無料AIも出てきた
今,数学の相談に使うなら Gemini Pro
ただし,重要な変化も生じています。
十分に信頼できそうな無料AIが登場したことです。
既に何度も言及していますが, Gemini Pro ですね。
現状では,無料AIに数学の質問をする場合,
正答をある程度期待できるAIが増えたとは思いますが,
依然として,間違った推論をとうとうと語られるリスクを
強く警戒しなければならないAIがほとんどです。
しかし,Gemini Pro だけは例外であり,
非常に高い確率で適切な回答を返すと考えてよさそうです。
それでもやはり,後述する通り完璧ではないのですが,
これほどの精度のAIなら,
数学の相談相手として十分に実用レベルでしょう。
2026年 6 月現在,無料である程度使えるAIに限ればの話ですが,
数学の相談相手としておすすめのAIを問われたなら,
筆者は迷わず上記のように答えます。
無料での利用制限もそれほど厳しくないと思うので,
時間的にうまく分散して使えば,
ある程度の常用も可能です。
長考するかどうかを自分で判断するようになった?
ChatGPT の衝撃的な大ポカ
これまで何度か述べているように,
1年前のAI数学能力検証(2025年 5 月)の再検証を
この時期(2026年 5 月)に行おうと思ったのは,
ChatGPT の最先端モデルが東大入試の数学で
満点を獲得したとのニュース(2026年 4 月末)に
触れたことがきっかけでした。
そして実際,熟考機能を有効にした ChatGPT
(つまり本検証の ChatGPT-T )に難しめの問題を数問与えてみると,
回答の精査はしていませんが,時間をかけて考えた上で,
しっかり解けていそうな雰囲気でした。
この時点では,
とさえ思ったものです。
しかし,いざ本検証に入ってみると,
問1の因数分解で撃沈してしまったわけですよ。
この時の衝撃と脱力感は,当分忘れられないと思います。
高速モデル (-N) を中心に見られた傾向の変化
筆者の主観が入ってしまうのですが,
1年前と今回の高速モデル (-N) について,
次のような傾向の違いを感じました。
例えば Grok は,1年前は熟考モデル Grok-T も
検証にご参加いただきましたが,
その後,無料では明確に長考させる機能が使えなくなったため,
今回は Grok-N だけのご参加となりました。
しかし,この Grok-N が長考しないかというと,
全然そんなことはありません。
どうも,質問の複雑さを自分で判断して,
複雑な質問なら長考する仕様に
なっているように見えます。
実際,Grok-N は,難しめの問題では
数十秒から数分程度考えることもありました。
これを高速モデル (-N) に分類してよかったかは,
今でも疑問が残るほどです。
ChatGPT-N も,質問によって
思考時間を大きく変えるタイプです。
他の高速モデル (-N) も,以前に比べると,
何が何でも即答しようとする傾向が弱まり,
質問によっては少しは考えるようになった感があります。
逆に,明示的に熟考機能をオンにした ChatGPT である
ChatGPT-T は,ほんのわずかな時間しか考えないケースが
明らかに増えました。
正直なところ,最近の ChatGPT-T は,
じっくり考えて答えてほしい場面でも
即答してくることが度々あり,もどかしくなります。
(あくまで筆者の体感ですが)
高速モデル (-N) も熟考モデル (-T) も,全体的には,
質問を見て,自身の判断で思考時間を
大きく変える傾向が強まっていると言えそうです。
この傾向が,簡単な問題への誤答率を高めている気がする
ChatGPT-T が問1(因数分解)で不覚を取ったことは
先述の通りですが,この時かけた思考時間は1秒でした。
時間をかければ難しい問題も解けるAIです。
獅子が兎を狩るように全力を尽くせば,
因数分解の間違いに気づけないとは思えません。
そして,確信を得るまでしっかり考えても,
問1を正しく処理するのに,
結局は数秒もかからないでしょう。
AIを提供する企業も,
計算資源を無限に持っているわけではないので,
直接の金銭的利益に繋がらない無料ユーザーからの質問で
多量の計算資源を消費したくない気持ちは分かります。
簡単そうに見える質問なら,
なおさら省エネで処理したいと考えるのも
自然かと思います。
しかし,質問が簡単そうに見えるかどうかで
長考するか否かを先に決めているのだとすれば,
それは,実際より難易度を低く見積もってしまった
質問に対する誤答率を上げているだけのような気がします。
数学以外ではそのような動作の方が
総合的に良いと判断しているのかもしれませんが,
数学では裏目に出ているように思えてなりません。
数学に関しては,
という方針の方が向いているのではないでしょうか。
ここでは,最も傾向が顕著に感じられた
ChatGPT-T について述べましたが,
ChatGPT-N ,Grok-N なども,
自主的に長考して難問を解き切れることも多いわりに,
よく考えずに間違えてしまうケースが目につき,
もったいない印象があります。
筆者は,1年前の検証の時点で,
ことに気づいていましたが,
この1年で,その傾向がより強まった気がします。
ゆえになおのこと,最先端AIの数学推論能力が
非常に高い水準に達したと言える現在においても,
無料AIも簡単な問題では間違えないという先入観は危ういと
強調する必要を感じるのです。
Gemini Pro はもう数学では完璧だと思ってよい?
たとえ完璧に見えるとしても
大半の無料AIが不正な回答を返した問6にも
しっかり対応した Gemini Pro 。
同AIは,もう数学の質問に対して
間違った回答を返すことはないと
考えてよいのでしょうか?
その問いに対する見解を述べる前に,
筆者も含めてAIの利用者側が肝に銘じたい心得を
確認しておきます。
数学以外では常識とも言えるこの心得ですが,
数学でもまだ,AIを全面的に信用するのは尚早でしょう。
今後永久になどとは言いませんが,少なくとも,
AIはもはや数学ではほとんど間違えない
というのが確固たる社会通念になるまでは,
上記の心得は必須であり続けると思います。
仮にそのような時代が訪れても,
粗悪なAIは存在しうるので,
安易に警戒を解くのは禁物です。
Gemini Pro もまだ完璧ではない
数学推論で間違えるケースは少ないが皆無ではない
完璧に見えるAIであっても簡単には信用しない。
その心得を胸に刻みつつ,Gemini Pro の現状について
お話ししたいと思います。
これまで何度も述べている通り,
純粋な数学の質問で Gemini Pro を間違えさせることは,
非常に困難になっています。
ただ,Gemini Pro が示す数学推論が
常に完璧ではないことも確認済みです。
今回の検証時期および当記事執筆の時期に
Gemini Pro から得た回答の中で,
次のようなミスを確認できました。
- $\,y=-x^2+1\;$のグラフは上に凸な放物線だが,
これを「下に凸」と説明してしまった。 - 立方体を平面で切ったときの断面が四角形になる場合,
それは必ず平行四辺形になると述べてしまった。
また,本検証の問6で Gemini Pro が
代替案として示した解法の1つについても,
厳しい人なら不正解としたかもしれません。
他にも,数は非常に少ないですが,
Gemini Pro が本格的に間違った推論や見解を
披露した場面もありました。
図示や図解の精度は不安定
Gemini Pro の数学推論はかなり信頼できると述べましたが,
2026年 6 月に色々試した限りでは,
図示や図解については発展途上という印象です。
もっとも,全然できないわけではなく,
びっくりするほど優れた図解を
示してくれるケースもありました。
ただ,全体的には,
図示や図解はまだ失敗する確率の方が高いと言えそうです。
これまでに見た失敗のパターンを分類すると,
次のようになります。
Gemini Pro の図示・図解については,
今はまだ「今後の発展に期待」という段階かと思います。
ただ,非常にうまくいくケースもあるので,
この調子で進化を続ければ,
より万能な数学相談相手になりそうな予感もあります。
本検証の質問は
だいぶ手加減したものであることに注意
AIの能力が伸びているのは確かだが
今回の再検証では,1年前と比べて,
無料で使えるチャットAIたちの数学推論能力が
順調に上がっていることを報告しました。
そして,Gemini Pro の正確性が驚くべき水準に達していることは,
何度も述べている通りです。
ただし,これらの検証結果は,
とも言えるでしょう。
1年前は,整った質問だけで十分だった
1年前の検証でも採用していた問1~問5は,
比較的整った質問文です。
すなわち,次のような点に注意して作成されたものです。
1年前は,上記の平凡かつ常識的な方針で
作った問題を出しただけで,
全てのAIがボロを出しました。
平均点も十分に低く,
AIは数学においてまだまだ全然ですよ
と言いたい筆者としては,
これ以上工夫する必要を感じませんでした。
今回は少し工夫をしたくなった
今回は,手軽に1年前との比較を行うため,
1年前と全く同じ問いを採点対象にしました。
その結果,平均点は順当に上がり,
昨年見られた10点台とか30点台といった
ひと目で問題外と分かる点数を取ったAIは,
今年はいませんでした。
ただし,本検証における70点や80点は,
全然十分な点数ではありません。
問1や問4など,解けて当然の愚問を
含んでいるのですから。
にもかかわらず,各AIの採点結果や平均点を
そのまま一覧表示したのでは,
多くの無料AIはまだまだであることが
正しく伝わらないような気がしていました。
そこで問6
そこで,正式な採点対象ではありませんが,
問2を改変して問6を作り,
AIたちに出題してみることにしました。
問2は何の先入観も与えず,
好きなように考えさせる質問文でしたが,
問6は,無理気味な解法を提案する文にしたのです。
それでは解けそうにない,
その方針に沿った解き方は分からないと
AIたちが言えるのならよし。
しかしそれはAIが最も苦手とするところのはず。
そう思いながら出題してみると,案の定…
いや想像を大きく超えて,総崩れに近い結果になりました。
(問6の結果については前ページをご参照ください)
問6は,それほど特殊な質問ではなかったはずです。
学習者がAIに対して,
この問題はこの解法では解けないの?
と尋ねることは,ごく普通にありえます。
学習者に頼られたAIたちには,そういった質問にも
正確に答えていただく必要があります。
しかし結果はご覧の通り。
そのことを感じ取っていただけたのなら,
本来は早くとも(かつ,行うとしても)
2027年以降と思っていた再検証を
前倒しした甲斐があるというものです。
AIにとって厳しい質問を作る余地はまだまだある
1年前の本検証は,AIの能力を測るというよりは,
現時点のAIが数学でどのように間違えるかを
お見せすることに力点が置かれていました。
そして,筆者が適当に問題を考えても,
お見せするだけの材料,
つまり数学でAIが間違えた事例は
ふんだんに集まりました。
つまり,これまでは,
数学の問題でAIを間違えさせるために
頑張る必要はなかったわけです。
しかし,ここに Gemini Pro が現れました。
同AIは,筆者が適当に質問しているだけでは
なかなか間違えません。
それはもちろん素晴らしいことなのですが,
筆者の質問の仕方がかなり甘いのも事実です。
もっと本気で間違えさせるなら,
- 中学数学・高校数学の各単元から網羅的に
AIが苦手としそうな題材を探す。 - 図解を積極的に要求する。
- 作問をさせてみる。
- 正しくない主張(命題)を「証明して」と迫ってみる。
- 無理気味な解法を指定し,
「この解法で解いて」と迫ってみる。 - 間違った証明をAIに見せて,
「この証明は正しいですか?」と尋ねてみる。
といった方策を本格的に検討するのですが,
まだそこまではしていません。
特に,(4) ~ (6) は効果が高そうだと思うのですが,
これらに該当する質問を多数行うと,
AIの学習に悪影響が出たり,
AIに対して害意ありと見なされたりしないか不安なので,
踏み込めずにいます。
問6を出題しただけで十分すぎる結果が得られたので,
現時点ではこれ以上工夫する必要を
感じないというのもあります。
AIを数学教育に活用するにあたり
活用について本格的に考える段階にはなった
今までは,AIを数学教育に活用する,
特に数学の相談相手として活用するには
回答精度が低すぎるAIばかりだったので,
個人的に,活用方法について考えるのは
まだ早いという感覚がありました。
しかし,数学的な精度だけなら
十分に高いAIが出てきた以上,
慎重派だった筆者も,活用について
本格的に考える段階に入ったかと感じています。
僭越ながら,今回の再検証の結果を踏まえつつ,
これらの観点で私見を述べたいと思います。
数学の教材作成におけるAI活用
教材に載せられる品質の回答文は当面期待できない
Gemini Pro としては珍しい不備
2026年 6 月下旬のある日,
Gemini Pro に$\;x^2-14x+24\;$の因数分解を依頼すると,
次のような回答になりました。

普通に因数分解できる式ですので,
Gemini Pro も問題なく解けています。
ただ,最後の方で,
「$\,x\times -12\,$」,「$\,-2\times -12\,$」といった式を
表示してしまっています。
この表記は数学界では不可のはずです。
教科書や参考書ではまず見かけない表記ですし,
学校教育現場では,
少なくとも「$\,-12\,$」にはカッコを付けて
「$\,-2\times(-12)\,$」と書くように
との指導を徹底しているはずです。
実際,Gemini Pro で新たにチャットを開始して,
「$\,-2\times -3\,$」の類の表記は問題ないかと問うと,
「避けるべき」との返答でした。
つまり,Gemini Pro 自身も避けるべきと判断する表記を
使ってしまっていることになります。
この例からも分かるように,2026年 6 月頃の時点では,
のです。
誤解のないように補足しますと,
Gemini Pro は,数学推論の精度のみならず,
数学用語や数学記号の扱い,
日本語の自然さなどにおいても,
他のAIより数段優れているように感じます。
それでもこのような不備を含む回答を返すのですから,
他のAIに完全無欠の回答文を期待するのは
なおのこと無理でしょう。
本検証で満点にした回答も,実は欠陥だらけ
本検証では満点となったAIからの回答文も,
そのまま教科書には載せられないものが大多数でした。
例えば,問1(因数分解)は満点のオンパレードでしたが,
次のような難点を含む回答が多々見られました。
- 2次式$\;x^2-3x-12\;$に対して
「判別式」という用語を用いている。
本来,「判別式」は2次式ではなく2次方程式の用語。 - 「$\,x=\dfrac{3\pm\sqrt{57}}{2}\,$」という等式を見せておきながら,
それが2次方程式$\;x^2-3x-12=0\;$の解であることを
明示していないため,
その$\;x\;$の値が何なのか分からない説明になっている。
これくらいの欠点を減点対象にしていたらきりがないので,
その回答文を読んだ学習者に
一定以上の悪影響がありそうだと判断した欠点以外は,
採点では大目に見ていましたが。
他にも,
- 日本語が奇妙(外国語が混ざることもしばしば)
- 数式が崩れる
- 数学記号,数学用語が日本の指導要領と合わない
といった難点は,本検証内で無数に見られました。
したがって,少なくとも当面の間は,
のような考えを起こすべきではないと思います。
AIに日本の教科書を読み込ませるなどの工夫により,
上記のような難点をほぼ完全に避けられるようになれば,
考える余地が出てくるかもしれませんが。
数学の個別指導におけるAI活用
AIに数学の相談をするのは簡単ではない
教育者側は対応できるが
AIチャットで数学の相談をして参考にするだけなら,
教材にそのまま載せられそうなほど
完全無欠な回答でなくてもよいとは言えます。
しかし,そのように許容範囲を広げても,
現状のチャットAIには,
次のような難点が残されています。
これらの難点は,
学習者よりは指導者や教材制作者の方が
対処しやすいでしょう。
ほとんどのAIは図示を避けて
文章だけで説明したがりますが,
十分な能力を持つ教育者ならば理解できます。
AIが間違えた時に間違いだと気づく能力も
総じて高いです。
つまり,図示が苦手,堂々と嘘をつくといった
AIチャットの欠点を,
教育者側は補いやすいと言えます。
AIチャットの欠点を踏まえた上でなら,
現状のAIチャットであっても,
教授法の立案検討やテストの作問など,
色々使い道はあるでしょう。
学習者側に自力対応は期待できない
問題は学習者側です。
学習途上の児童生徒たちの大多数は,
$\rm \LaTeX\;$のような数式入力の記法を知りません。
解いてほしい問題を画像化してAIに渡すだけでも
苦手な子は多いでしょうし,
AIからもらった回答に対して質問を重ねたくとも,
複雑な数式は入力できないという制約が立ちふさがります。
教育関係者であれば,
仕事なんだから覚えましょう
という方針でもよいかと思いますが,
数学や教育の専門家でもない児童生徒に
その要求は理不尽です。
また,学習者は,学習途上ゆえ
AIの間違いに気づけない確率が高いです。
学習者にとって図示や図解が欲しい時にも,
多くの場合,AIは文章だけで説明しようとします。
AIが正しい回答を返しても,
学習者の学年では理解できない説明である
場合もあります。
つまり,
これなら人間に教えてもらった方がよほど良い
ということになりかねないわけです。
どのような活用形態を目指すか
ここからしばらくは完全に筆者の夢想ですが,
主に数学教育を念頭に置き,
AIをどのように教育に組み込むとよいかについて,
軽く考えてみます。
AIロボットによる家庭教師みたいなのは,
いずれは一家に一台という時代も来るかもしれませんが,
人型ロボット技術はまだまだ開発途上ですので,
各企業や各国政府が次に目指す形態とは言いがたいでしょう。
そうではなく,
AIさえ十分に発達すれば
現在のネットワークインフラや
IT機器でも実現できそうなサービス形態
を目指すのが妥当かと思います。
その条件を念頭に置くなら,
AIが教えるオンライン個別指導塾はどうかと
個人的には考えています。
(1) では学習者が教えてほしい問題を扱ってもよいですし,
(3) では,AIが文字などを読み取るだけでなく,
人間がオンラインで教える場合と同様,
学習者と音声会話もできるとなお良いでしょう。
要するに,
人間の指導員が個別指導で行っていることを
AIにしてもらおう
という構想です。
上記のアイデアについてどう思われるでしょうか?
平凡 ですよね。
この構想自体は,誰でも思いつきそうな平凡なものです。
筆者は今,この平凡な構想を披露したいのではなく,
を考えたいのです。
本構想を実現するために必要なシステム要件を
ざっと挙げてみましょうか。
上記の要件は,これで全部ではありません。
まじめに考えればまだまだいくらでも出てきます。
問題は,これらの容赦ない要件を
今のAIが十分に満たせるのかということです。
現在(2026年 6 月頃)のAIは,
しっかり整えられた矛盾のない数学の質問に,
時間をかければ正確に答えられるようになってきた
あたりの段階です。
それだけでも驚異的な技術ですが,
しかし「まだその段階」です。
上述した複雑な要件に沿って,
学習者との意思疎通を正確に滞りなく処理するには,
我々が普段使っている無料チャットAIとは
比較にならないほど高性能なAIが
必要になるに違いありません。
また,人類の叡智を結集すれば上記のようなシステムを
実現できる技術レベルに達したとしても,
それを万人が使えるようにするために必要な計算資源を
確保できるのかという問題もあります。
筆者は,1年前の検証記事で,
との予測を述べました。
その予測は,現時点でも大きく変わっていません。
「AIが数学を教えてくれる」と言われたら疑おう
前述した「AIが教える個別指導塾」の構想は平凡ですが,
AI側の応対精度が十分に高い状態で実現できるなら,
有用であるのは間違いないと思います。
平凡かつ有用な構想であるだけに,
もうどこかで開発が進んでいてもおかしくはありません。
(多分進んでいるのでしょう)
あるいは,筆者が知らないだけで,
既にサービス提供が開始されていたりするのでしょうか?
しかし,現在の無料チャットAI程度の性能では,
学習者をミスリードしてばかりの
低性能なサービスになりそうな予感しかありません。
教育サービスを提供する会社が,
世界的に有名な無料チャットAIより
はるかに高い性能のAIを保有しているなら別ですが,
ちょっと想像しにくい話です。
仮に,今そのようなサービスが開始された場合,
あるいは既に存在する場合,
学習者を頻繁に誤誘導する低性能サービスである可能性を
強く疑う必要はあると思っています。
ただ,その種の教育サービスは全て低性能だと
最初から決めつける必要はありません。
試せばよいのです。
検討中の教育サービスを採用する前に,
搭載されたAIが十分な精度の応対で
学習者を正しく導いてくれるかどうかを,
事前に試せばよいのです。
一番ダメなのは,
のように盲信し,AIの精度を試しもせずに
採用することです。
その場合,大切や我が子や教え子に低性能AIを使わせ,
彼らの学習と成長を著しく阻害するおそれがあると,
声を大にして言いたいと思います。
AI活用は性能をわきまえて
否定的な見解を多めに述べてきましたが,
筆者は現時点で数学教育にAIを持ち込むこと全てに
反対というわけではありません。
AIに数学の相談相手をさせるのは難しくとも,
(筆者は詳しくありませんが)
AIの使い道は色々あるようですから。
既に,目的に合わせて開発されたAIが
多種多様な用途に活かされていると聞きますし,
性能をわきまえた活用をしているなら良いと思います。
もっとも,筆者はこれまでの職務経験を通じて
デジタル教材業界にかなりの不信感を持っているので,
AIが十分に機能して役立っているかどうか
不確かなケースも多いのではないかと疑っています。
よく分からないままに疑っているだけなので
深入りはしませんが,
疑うこと自体は正しい姿勢だと思います。
筆者は別に,
と言っているのではありません。
と言いたいだけなのです。
無料AIの性能が右肩上がりとは限らない
これまでは着実に伸びてきたが
本検証では,無料チャットAIたちの数学推論能力は,
1年前と比べると確実に伸びていると結論づけました。
昨今のAIの進化速度を見れば,
数学においても能力が伸びていることは順当と言えますが,
とも思います。
筆者はAI業界にそれほど詳しくないので
詳述は控えますが,
無料AIの能力向上を妨げうる要素について
軽く触れておきます。
AIチャット事業は,現状では赤字体質らしい
AIチャットの代名詞とすら言える ChatGPT 。
「Mythos」(ミュトス)が社会現象になっている Claude 。
これらを提供する OpenAI 社や Anthropic 社は
さぞ大儲けなのだろうと思ったら,
今のところは全然違うのですね。
これまでは,ユーザー集めやデータ集めのために
無料サービスを充実させるとともに,
計算資源確保のための設備投資の段階だったため,
巨額の赤字を抱えながらここまで来たそうです。
両社ともに,この状況をいつまでも続けるわけには
いかないでしょう。
つまり,いずれは収益化に向かわなければならないはずです。
Gemini の Google 社や Copilot の Microsoft 社のように,
強大な経営基盤を持つ会社は違うかもしれませんが。
各社が無料枠を縮小する可能性
もし,AI各社が収益化に向かえば,
これまでのように無料でAIチャットを利用することは
できなくなるかもしれません。
無料枠は残るとしても,無料ユーザーには計算資源を
あまり使わせないようになる可能性もあるでしょう。
画面レイアウト上は何も変化がなくとも,
裏では計算資源の消費量が減らされている可能性は
否定できません。
その場合,以前に比べて無料AIの性能が
落ちることもありえそうです。
本検証のような数学推論能力のテストにおいても,
以前より成績が下がるようなことがあっても
不思議はありません。
AI各社も,あまりに優秀なAIを無料で提供すると,
無料ユーザーが満足してしまい,
有料契約してくれないというジレンマもあるでしょう。
すなわち,AI各社が無料AIの性能を
わざと落としたくなるインセンティブさえ
発生しうるわけです。
AI業界に詳しい人から見ても同じ意見かは分かりませんが,
よく分からない身としては,
今後,AIたちの推論能力が右肩上がりにならない可能性を
頭に入れておいた方が良さそうに思えます。
今後もやはり無料AIの性能検証は有用と思われる
以上を踏まえると,ある無料AIの数学推論能力が
一度は十分な水準に達したと判断されたとしても,
今後はそのAIの能力検証は不要であるとは
言い切れません。
例えば,2026年 5 月の本検証において,
Gemini Pro の無料バージョンは
非常に高い数学推論能力を有していると筆者は判断しました。
しかし,その判断が正しいとしても,
今後は調べるまでもなく Gemini Pro は大丈夫と言えるかは
微妙というわけです。
大丈夫だと思うけれども絶対ではない
というのが妥当な感覚かと思います。
他のAIについても同様で,ある時期のある無料AIが
十分な数学推論能力を有していることが確認できても,
その後の同AIが十分な力を保持できているかは
一応検証を要します。
無料で提供するには性能が高すぎると判断されて,
利用者の目に見えない形で
無料バージョンの性能を下げられてしまう可能性が
あるからです。
この検証を今後も続けるかは未定
本検証の意義は,もうしばらくは残ると思われるが
数学推論能力においては完成度の高い
Gemini Pro が現れたとはいえ,
図示や図解の質は安定していません。
また,Gemini Pro 以外のAIは,
AIがちょっと苦手そうな問題を何問か出したら
簡単に間違えてしまいます。
特に,問6程度のミスリードに
多くのAIがだまされてしまう現状は,
大きな不安要素と言わざるをえないでしょう。
加えて,一般ユーザーにとって重要な
無料AIの性能が右肩上がりかどうかも見通せません。
この現状を見るに,
今後も定期的に当記事のような検証を行う意義は
もうしばらく残りそうな気がします。
今後,本検証の意義は小さくなり,
反対に負担は大きくなることが予想される
しかし,正直なところ本検証は負担が大きいです。
かつ,AIにとって間違えやすい問題を作るのも
難しくなっていきそうです。
また,AIの進歩とともに,
多くのAIが数学教育に適した性能を
獲得していくのでしょうから,
検証を続ける意義は徐々に小さくなっていくと思われます。
最終的には,
有名どころのAIなら,
もはや数学で間違えることはほぼ皆無
という結論に近づいていくのでしょう。
その結論が出るまで本検証を続けるのが
良いかどうかは若干疑問ですし,
そもそも労力的に無理かもしれません。
AIの力を測れる問題集の方が有益かも?
それよりは,AIが苦手とする問題集を公開し,
筆者自身は本検証から手を引くのもよいかと考えています。
これまで何度か述べたように,
AIが十分に発達した時代になったとしても,
数学でもっともらしい嘘をとうとうと語る粗悪AIは,
当然存在しえます。
AIが教えてくれると謳う数学教材を本格的に採用する前に,
事前にその実力を確認することの重要性は,
当分の間残り続けると考えるべきでしょう。
その際に,AIが間違えやすい質問や
得られた回答の評価ポイントなどが分かっていると,
実力の確認がスムーズに進むと思うわけです。
時間が出来たらですが,
そのような質問を集めた記事を公開し,
追記型で更新していくことを考えています。
次ページの内容
筆者がお伝えしたかったことは以上ですが,
当記事の要点を最後のページにまとめます。