【数学教育のあり方】数学って何の役に立つの? と訊かれたら

中学生や高校生がよく抱く疑問

「数学って何の役に立つの?」という疑問は,
多くの学習者がいだくようです。

現に必要が生じて数学を学び直している
社会人などは思わないでしょうが,
単に学校の教科として数学を学んでいる中学生や高校生に
生じやすい疑問です。

この質問をされて困ったことがある指導者は
多いのではないでしょうか。

この記事では,この質問に対する対処法について
考えたいと思います。

心の底から納得してもらうことは必須ではない

実は筆者も,生徒にこの質問をされて困ったことがあります。

内心,若干焦りつつ曖昧あいまいにはぐらかした後,
この質問に対する対処法について
色々思いをめぐらしたのですが,結論として,
「心の底から納得してもらうことは必須ではない」考えています。

そう考える理由を説明したいと思います。

この質問をする心理には2つのタイプがある

中高生が他者に対してこの質問をする場合の心理としては,
あくまで筆者の想像ですが,
大きく2通りに分かれると思います。

  1. 単に興味が湧いたからく。
  2. 数学の学習にストレスを感じており,
    学習を避けても支障がないなら避けたい。

(A) のケースなら,それほど問題になりません。
次のような抽象的な説明でも,一応の納得は得られ,
学習を続けてくれるでしょう。

  • どの分野でも数学は使われていて,世の中は数学だらけである。
  • 生活でもかせる人は活かしている。

このように説明した上で,
「学習していればだんだん分かるようになる」と助言すれば
十分ではないでしょうか。

質問した人に応じて,興味を持ちそうな
具体例を示せたら素晴らしいと思います。

ただ,誰が質問してきても,
その質問者が気に入るような例,
しかもその質問者の学習段階と理解度で
理解できるような例を提示できるように,
数学の活用例を多数考えておくのは大変です。

日々忙しい中で,
されるかどうかも分からない質問に
対処するための備えに
大きな労力を割くのは無理があるように思います。

備えるとしても,
普段から思いついた例をストックしておいて,
質問してきた生徒の感覚に合いそうなら
紹介するくらいで十分かと思います。

数学の学習で苦しんでいる人を納得させても意味がない

問題となるのは (B) の場合です。

数学が分からなくなってきていて,
定期試験を切り抜けるのにも
教科書の丸暗記に頼らざるをえないなど,
学習に大きなストレスを抱えている場合です。

苦痛であって,かつ必要がないものなら
やめたいと考えるのは人情です。
しかもそれは最善策です。

無駄なものに時間と気力と労力を費やすくらいなら,
他のことを頑張った方がよいです。
もっと言えば,遊んだ方がまだよいです。

無駄なものなら,ですよ。
もちろん数学の学習はそうではありません。

しかし,数学の学びに苦しむ生徒としては,

数学は多くの人にとって必要ないものであり,
学ばなくても大丈夫

という結論を得て,安心して学ぶのをやめたいわけです。
その心理から,くだんの質問が出てくることもあると思います。

このような心理でこの質問をしてきた生徒に対し,
適切に回答するのは難しいのではないでしょうか。

前述した (A) のタイプの生徒用の抽象的な回答では,
納得してもらえません。

以前筆者にこの質問をしてきた生徒は
(A) のタイプだったので助かりましたが…

筆者は,(B) に該当する生徒に納得してもらえる方法を
ずっと考えていましたが,思いついていません。

しかし,考えるうちに,
そもそも納得させてどうするんだと思うように
なってきました。

というのも,数学を学ぶ必要性や有用性を
納得させることができたとして,
だからどんなに苦痛であっても頑張ってね」というのは
おかしいでしょう?

質問者の理解度を回復させることが先決

このケースでるべき解決方針は,
その生徒の理解度を,
学校の授業についていける水準まで追いつかせて,
学習のストレスを許容範囲内に収めてあげることだと思います。

それができれば,生徒のこの疑問は消滅するか,
消滅しなくても (A)(単なる興味)に該当するようになり,
無理に納得してもらう必要がない疑問に
変化するというわけです。

(B) の意味でこの質問をしてきているのかどうかは,
生徒との会話で簡単に判断できるでしょう。

そして,もし (B) の意味であるのなら,
その質問に何とか回答しようとするのではなく,
生徒の心理状態および学習状況の把握や,
理解度の改善策の考案などに注力した方が良いと思います。

その生徒に,本格的に数学を
復習する気になってもらうために
納得のいく説明が必要ということであれば,
当サイトの序文で述べた
数学の学びによって得られる効用の一部を
説明するとよいかもしれません。

当サイトの序文(長文注意)

まとめ

以上,「数学って何の役に立つの?」という質問に対する
対処法について考えてみました。

その質問に答えられるなら答えてもよいのですが,
「役に立つから無理してでも頑張って」というのは
生徒を苦しめるだけです。

数学の学びが苦しくなって
この質問をしてきた生徒に対しては,
質問に答えることよりも,
学びのストレスが許容範囲に収まるように,
理解度を引き上げることの方が肝要だと思います。


最後まで読んでいただきありがとうございます。
参考になれば幸いです。

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