【数学教育のあり方】単元のマップ化と,最短ルート復習用教材の提案

この記事で提案したいこと

この記事では,学校の数学の授業から
取り残されてしまった生徒が,
速やかに学校の授業に追いつきたい時に使う教材として
適していると言えるための条件を考え,
教材の素案を示したいと思います。

最初から結論を述べますが,その条件とは,
教材に次の2つの機能を持たせることです。

数学教材に求められる機能

  • 学習目標とする単元を理解するために,
    事前に理解すべき単元が判断できること。ℹ️️
  • 学習目標とする単元を理解するために,
    前提となる単元で理解すべき部分が
    はっきり分かること。ℹ️️ℹ️️

この記事では,数学教材にこれらの機能を
持たせることの必要性について述べた後,
機能を実現するための手法を検討します。

この記事の内容に有用な部分ありと考えてくださる
教材制作者の方は,筆者の許可等は必要ありませんので,
ぜひ,この記事の考え方を教材に
取り入れてみていただきたいと思います。

この記事独自の言い回し

この記事では,「学校の授業から遅れた生徒
のように言い表した場合,

学校の数学の授業から大きく遅れて,
現在学校で行われている数学の授業を聞いても
前提となる理解の大幅な不足により
ほとんど理解不可能になってしまった
中学生や高校生

を指します。

また,「学校の授業に追いつく」という表現は,
一度学校の授業から遅れた生徒が,
現在学校で行われている数学の授業が
理解できる状態になることを指します。

授業から遅れた生徒をどう助けるか

短期間で授業に追いつかせる手法を確立する必要がある

学校の数学の授業から取り残され,
現在学校で受けている授業が
理解不可能になった生徒にとって,
数学の学びがどれだけ辛いかは,
当サイトの序文で述べた通りです。

授業から取り残されたというほどではなくとも,
曖昧あいまいな理解のままで新しい理論を
無理に学んでいる生徒は無数にいるでしょう。

そのような生徒を含めると,
数学の学びに大きなストレスを抱えている生徒は
相当な数にのぼるに違いありません。

その苦しみを避けるために,各生徒が数学の授業に
遅れずついていけるようにすることは,もちろん大事です。

しかし,授業から大きく遅れる生徒が
全く出てこないようにすることは不可能です。

学校の数学の授業から遅れるパターンとしては,
数学の理論の一部が全くしっくりこないまま
授業が進んでしまったというケースが多いでしょうが,
それさえ防げれば大丈夫というわけではありません。

精神的に勉強が手につかない時期が続くこともあるでしょうし,
長期の病欠など,不可抗力の要因もありますから。

現在の日本は,学校での集団授業を
数学教育の軸に据えており,
その中で,学校の授業から大きく遅れる生徒は
必ず,少なからず出てきます。

それならば,そのような生徒を
できる限り早く学校の授業に追いつかせる手法を
確立する必要がある
と思います。

つまり,どんな事があっても授業から
遅れないようにするのではなく,
大きく遅れても比較的短期間で取り戻すための
現実的な手段がある状態を目指すのです。

それが実現できるのであれば,
数学の学びに苦しむ中高生を激減させる道が見えてきます。

この記事は,その問題を,
教材改革により解決する案を示すものです。ℹ️️

この記事で提案する形態の教材は,
学校の授業から大きく遅れた生徒だけでなく,
少しだけ遅れた生徒や,遅れていない生徒でも
大いに活用できると思います。

また,大学生や社会人が
中学数学・高校数学を学び直す際にも
威力を発揮するでしょう。ℹ️️

この提案の主目的は,
学校の授業から大きく遅れた生徒の手助けですが,
実際には万人向けに近い教材になると考えています。

学校の授業に追いつくために必要な復習

まずは,分かっているところまで戻る

学校の授業から大きく遅れた生徒が
本格的に数学を復習する場合に,まず必要なことは,
分かっているところまで戻ること」です。

学校の授業から大きく遅れているにもかかわらず,
今学校で習っている内容だけを復習している生徒がいるなら,
周りの大人が止めてあげたいところです。

どこに戻ればよいか

ただ,分かっているところまで戻るとは言っても,
ほとんど関係ないところに戻っても仕方がありません。

例えば,学校の授業で中3数学の
【2次方程式】を習っていて,
その内容がちんぷんかんぷんになっている生徒が
いるとします。

この記事に出てくる数学の単元名について

この記事では,数学の単元名を,隅付き括弧を用いて,
【2次方程式】のように表しています。

なお,単元名については,教科書・参考書によって
異なりますのでご注意ください。

そこで,この生徒の算数数学への理解度を知るべく,
小学算数についても精査して,
次のようなことが分かったとします。

  • 小5算数の【割合】がかなり苦手である。ℹ️️
  • 小5算数の【割合】より前の単元は,
    概ねよく理解できている。

この場合,小5算数の【割合】まで戻って,
そこから小5小6の算数と中1中2の数学,
そして中3数学の【2次方程式】以前の単元を,
苦手な単元を中心に順次復習していくという作戦は
うまくいくでしょうか。

この作戦に対する筆者の意見ですが,
時間がある時なら良いと思います。

特に,これから夏休みなどの長期休暇に入る時期であれば,
この作戦は有力だと思います。⚠️

あるいは不登校からの復帰を目指している状態であり,
学校の授業に一刻も早く
追いつきたいわけではないといったケースでも,
このようなじっくり型の復習をしてもよさそうです。

しかし,学校の授業が今も進行中で,
早く追いつかないと学校の数学の授業時間が
その生徒にとって無駄かつストレスになり続けるという状況では,
そんな悠長な復習はできません。

近いうちに,進級のかかった定期試験も
やってくるのですからなおさらです。

最短ルート復習

くり返しになりますが,前述のような状況では,
当該の生徒は,できる限り早く学校の授業に
追いつくことが求められます。

そのためには,現在学校の数学の授業で扱われている単元と
少なからず関わりのある既習単元の基本事項を優先して
復習する必要があるでしょう。

この記事では,以後,そのような復習を
最短ルート復習」と呼ぶことにします。

  • 復習に限らない場合は,
    最短ルート学習」と表します。

また,そのような学習経路を指すために,
最短ルート」または「最短経路」という表現も
用います。

教材に必要な機能

数学の検定教科書や,ちまたにある紙ベースの参考書には,
筆者が知る限り,最短ルート復習を行うのに
向いているものは見当たりません。

既存の教科書や参考書には,
次の2つの機能がないからです。

最短ルート復習に使う教材に必要な機能

  • 復習すべき単元が判断できること。
  • 各単元のどの部分を復習すればよいかがはっきり分かること。

復習すべき単元が判断できること

前出の例の場合,小5算数の【割合】に戻るのは
得策ではないと思います。

中3数学で学ぶ2次方程式の概念や
基本的な解法を理解するのに,
割合の知識は必要ないと思われるからです。

もちろん,割合を理解していないと
解けない問題も出てくると思いますが,
学校の授業の基本的な部分さえ
理解できないというほどの影響は出ないでしょう。

その生徒の当面の目標は,
学校の授業の基本的な部分が理解できるようになり,
学校の授業時間の大半が無駄にならないようにすることです。

応用問題を解く力は,
また後で鍛えてもよいのです。⚠️

【2次方程式】の基本を理解するなら,
中1数学の【文字の式】や【1次方程式】,
中2数学の【式の計算】,
中3数学の【式の展開と因数分解】や【平方根】の
基本が理解できていれば
概ね足りるのではないかと思います。

図形分野や統計分野は当然後回しです。
関数やグラフも後回しでよいでしょう。

そして,一見すると関連が強そうにも思える
中2数学【連立方程式】でさえ,
一旦いったんは省略してもよいかもしれません。⚠️

このように,復習すべき単元が判断できることが,
学校の授業から遅れた生徒が
速やかに授業に追いつくために使う教材として,
決定的に重要な機能になると思います。ℹ️

各単元で,復習すべき箇所が分かること

学校の授業についていけるようにするために
数学を復習しようとしている人は,
当然,基本的な部分を優先して復習したいでしょう。

しかし,既存の教科書や参考書では,
どの部分を優先して復習したらよいのかが
分かりにくい構成になっていることがほとんどです。

はっきり分かるのは,
全部復習して全部理解すれば万全になる
いうことだけです。

それでは,最短ルート復習は望むべくもありません。

学校の授業に速やかに追いつきたい人にとって,
各単元において
優先して復習すべき部分がはっきりしていることは,
必要不可欠な特性であるはずです。

復習に適した教材の実現案

学習内容を「基本」「標準」「応用」に分ける

そこで筆者が考える案ですが,
各単元の説明や問題を「基本」「標準」「応用」に分類し,
記述箇所も明確に分けてしまうのはどうでしょうか。⚠️

分類の大まかな基準は,次のようにします。

  • その単元および他単元を理解する上で
    必要になる基本事項とその説明,
    およびその理解を確認するための問題は「基本」とする。
  • 「基本」に入れた内容以外で,
    多くの練習問題を解くのに有用だと思われる事柄や,
    典型的な応用問題は「標準」とする。
  • 理解していなくても,
    その単元および他単元を理解する上で
    さほど支障がないものは「応用」とする。

分類する際の注意点

難易度だけで分類が決まるわけではない

上記の分類は,難易度だけで決めるべきではないということに
注意する必要があると思います。

各単元の理論を説明するための本文は,
大部分を「基本」に入れることになるでしょう。

その中に少々難しい内容があっても,
その単元または他単元を理解するために重要であるなら,
「基本」に入れるべきだと思います。

逆に,比較的簡単な話題・問題であっても,
今後の数学の学習にさほど影響がないものなら
「基本」からは外すのが妥当かと思います。

練習問題の分類

練習問題については,基礎理論がしっかり理解できたことを
確認するための問題は「基本」に入れ,
典型的な応用問題を「標準」に入れます。

ただし,他単元の「基本」を理解するために
習熟しておくべき練習問題なら,
多少難しくても「基本」に入れた方が良いでしょう。

「標準」と「応用」の境界線

入試レベルの問題や他分野との融合問題は,
原則として「応用」に入れることになります。

ただ,「標準」と「応用」のどちらに入れるかで
迷う問題も出てくると思います。

そのような問題については,
他単元の「標準」程度の問題を解くのに
有用な類題になりうると考えられるなら
「標準」に入れるという方針でどうでしょうか。

学習者にはっきり区別がつくことが重要

大事なのは,利用者に対して,
それぞれの本文や問題・解説が
「基本」「標準」「応用」のいずれであるのかが
はっきり分かるように示すことです。⚠️

紙ベースの教材なら,
「基本」「標準」「応用」の記述箇所を
明確に分けてしまってもよいでしょう。

そうすることで,基本的には
関連する単元の「基本」を辿たどって復習すれば,
学習目標となっている単元の「基本」が理解できる状態を
いち早く実現できることが,
利用者にしっかり伝わります。

各単元をマップ化する

そして,もう1つの重要な要素が,
各単元のマップ化です。

各単元の学習内容を「基本」「標準」「応用」に分けた上で,
各単元間の関連をマップで表現します。

例えば,中3数学の【2次方程式】を理解するために
前提となる単元どうしの関連を図にすると,
次のようになるかと思います。⚠️

図1

図中の矢印は,

矢印の終点の単元の「基本」を理解するためには,
矢印の始点の単元の「基本」を理解している必要がある

という意味です。

より詳しい情報を図に含めることも可能

この図の記法を改良すれば,
より詳しい情報を図に含めることも可能だと思います。

ここでは,

ある単元の「基本」を理解するために
前提となる単元の「基本」を理解している必要がある

という関係を矢印で表しましたが,
この関係を「基本→基本」と表すことにしますと,
「基本→標準」「標準→標準」「標準→基本」
など,様々なパターンが考えられます。ℹ️

それらのパターンも含めて図示するなら,
次のような工夫が考えられます。

  • パターンによって矢印の線種(実線,破線,点線など)
    線の太さ,色などを変える。
  • パターンによって矢印の始点・終点の形や色,
    大きさを変える。
  • 複数の図に分ける。

ただ,実際にはそこまでせず,
各単元の学び直しに必要な単元・水準の情報を
箇条書きや表で教材内に示せば十分でしょう。

より親切な構成を目指すにしても,
箇条書きや表で示した情報の使い方を,
図1のような一部の単元を抜き出した図で例示して
説明すればよいのではないでしょうか。ℹ️️

ここでは図にしていますが,
必ずしも教材にこのような図を載せる必要は
ないと思います。

全ての単元についての図を作ると,
図が大きく複雑になりすぎるということもありますから。

ただ,このようなイメージを持っておきたいと
いうことです。

教材に載せたい情報

実際に教材に載せるのは,次のような表にすると
良いのではないかと思います。ℹ️️

表1

学年目標とする
単元
「基本」の前提となる
単元・水準
「標準」の前提となる
単元・水準
中1正の数と負の数基本:
 小5 速さℹ️️
 小5 小数の計算
 小6 分数の計算 
文字の式基本:
 中1 正の数と負の数
標準:
 小5 割合(*1)
 小5 速さ
1次方程式基本:
 中1 文字の式
標準:
 中1 文字の式
中2
中3
平方根基本:
 中3 式の展開と因数分解
2次方程式基本:
 中1 1次方程式(*2)
 中3 平方根
標準:
 中1 1次方程式

この表からは,次のようなことが読み取れます。

  • 中3の【2次方程式】の「基本」が
    習得できるようにするには,
    中1の【1次方程式】の「基本」と
    中3の【平方根】の「基本」を習得すれば大丈夫。
  • 中3の【2次方程式】の「標準」が
    習得できるようにするには,前項に加えて,
    中1の【1次方程式】の「標準」が習得できれば大丈夫。
    中3の【平方根】については,
    「標準」は必要なく,「基本」で十分。
  • 中3の【2次方程式】を学ぶために,
    中2の【連立方程式】を先に習得する必要はない。ℹ️️

もちろん,この表が正しいことが前提です。

この表の妥当性は大して検証していませんし,
各問題を「基本」「標準」「応用」の
いずれに含めるかによっても,
この表の内容は変化します。

ただの具体例としてお考えください。

この表を作成する時の考え方

この表を作成する時の考え方について,
例を交えつつ説明します。

話題や問題の配置と表を一致させる

当然のことながら,上記の表と
教材内で説明される話題や出される問題の配置は,
矛盾しないようにする必要があります。

例えば,表1中の (*1) で,
中1数学の【文字の式】の「標準」を習得するには
小5算数の【割合】の「標準」を
習得していることが必要であると示されています。

一方,【文字の式】の「基本」は,
【割合】の理解は前提になっていません。

この場合,【文字の式】の「基本」で
【割合】に関する話題や問題を出すのは
避ける必要があります。

また,【割合】は,苦手とする小学生が多いと
言われている単元です。

その不得手を引きずっている中学1年生も多いでしょう。

そのような単元の理解を前提とする問題を,
中1数学とはいえ「標準」で出すのは
やや厳しいと考えるなら,
それらの問題は「応用」に配置するのも一案です。

その場合は,もちろん,
上記の表から (*1) の記述を消去することになります。

そのあたりの方針は,その教材がターゲットとする
学習者の学力水準によって変化すると思います。

「基本→標準」や「標準→基本」もありうる

出現頻度は低いかもしれませんが,

  1. ある単元の「標準」を理解するために
    前提となる単元の「基本」を理解している必要がある
  2. ある単元の「基本」を理解するために
    前提となる単元の「標準」を理解している必要がある

といったことも十分ありえます。

(A) に該当するケースは,表1にもあります。

実際,表1をもとにすると,
中1数学【文字の式】の「標準」を学びたい場合,
中1数学【正の数と負の数】については
「基本」で十分ということになっています。

(B) に該当するケースは表1にはありませんが,
中学数学から高校数学への接続では,
(B) に該当するケースが増えそうです。

例えば,中3数学の【相似な図形】【円の性質】
【三平方の定理】などの問題を,
かなり自由自在に解けるようになっておかないと,
高校数学Aの【図形の性質】については,
「基本」を理解することもままならない気がします。

その考えに基づくならば,
高校数学Aの【図形の性質】の「基本」は,
中3数学の【相似な図形】【円の性質】
【三平方の定理】の「標準」の習得が
前提になることになります。⚠️

単元間の関係をスリム化する手法

単元Bを学ぶのに単元Aのごく一部の知識のみが
必要になるというケースでは,

単元Aのその知識に関する説明を
単元Bの「基本」にも含めた上で,
単元Bを学ぶために単元Aを事前に学ぶ必要はないとする

という手法も考えられます。

この手法には,単元間の関係がスリム化され,
よりシンプルな最短ルートが構築できるという利点もあります。

この場合,同じ知識が単元Aでも単元Bでも
解説されることになりますが,
解説の重複を徹底的に排除する必要はないでしょう。⚠️

分かりにくいかもしれないので,1つ例を挙げます。

例えば,高校数学Ⅱの【三角関数】を学ぶには,
同じく数学Ⅱの【円の方程式】の一部を
事前に理解しているのが望ましいでしょう。

具体的には,

原点を中心とする半径 $r$ の円の方程式は
$x^2+y^2=r^2$ と表される

ということを知っていると,
恒等式 $\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$ に対する
理解がスムーズになるからです。

ただ,【三角関数】の「基本」や「標準」を学ぶだけなら,
円の方程式について,それ以上のことを
知っている必要はないと考えられます。

中心が原点でない円の方程式とか,
円と直線の交点の座標の求め方とか,
不等式が表す領域などは,まず不要です。

にもかかわらず,$x^2+y^2=r^2$ だけのために,
【三角関数】の「基本」を学ぶ際の前提となる習得範囲に,
【円の方程式】の「基本」を含めると,
学習目標が【三角関数】である学習者に対して
かなりの遠回りを促す案内になってしまいます。

この場合は,上の説明の「単元A」を【円の方程式】,
「単元B」を【三角関数】として,

「$x^2+y^2=r^2$」についての解説を
【三角関数】の「基本」にも含めた上で,
【三角関数】の前提となる習得範囲から
【円の方程式】を外す

という対応をすると良いのではないでしょうか。

紙ベースの教材だと…(折りたたみ)

紙ベースの教材だと,紙面がもったいないと考えて
「本書の○○ページを参照」としたくなるのも理解できます。

ただ,単元Bを理解するのに必要ないとされていた
単元Aが参照先になっていると,
学習者が,「それは自分に理解できるのか」と
不安を覚える可能性がありそうなので,
何らかの配慮をした方が良いかもしれません。

なお,ITを活用した教材であれば,
紙面の心配がないので,同じ解説を別の単元でも
再度画面に表示するということがしやすいと思います。

各単元は,もう少し細かく分けてもよい

これまでに登場した図や表は,
教科書で言うところの「章」を単位とするイメージで
作成したものです。

実際にはもう少し細かく,
「章」の1つ下の「節」あたりを
最小単位にするのが良いかと思います。

話が細かくなりすぎるので詳細は割愛しますが,
この最小単位は大きすぎても小さすぎても
不都合が生じると考えられるので,
注意したいところです。

単元がマップ化された教材の利点

上記のような教材を制作した場合の最大の利点は,
どの単元のどの部分を復習すればよいかを,
学習者自身が適切に判断できるようになることだと思います。

学習者が中学生である場合,
教材で示された情報を学習者自身が解釈して
学習計画を立てるのは難しいかもしれません。

しかし,保護者が協力すれば大抵たいていは可能でしょう。

すなわち,数学に詳しい人がいなくても
正確な判断が可能になるわけで,
そのメリットは大きいと思います。

このような教材があれば,
次のような失敗パターンの多くを
防げるのではないでしょうか。

  • 全く前提知識が足りないのに,
    今習っている単元だけを学ぼうとする。
  • 学校で既に習った範囲を片っ端から復習して,
    なかなか学校の授業に追いつけない。
  • どの単元をどの程度復習すればよいのかが分からず,
    手が付かない。ℹ️️
  • 他単元の理解のために必要な学習事項を省略してしまう。ℹ️

筆者は,何らかの事情により
独学せざるをえない学習者が,
指導者を得られる学習者に比べて
何かと不利になるという現実が好きではありません。

その差を,この部分についてだけですが,
ほぼ埋められる手段になりうると考えています。

数学を学び直したい大学生・社会人にも恩恵あり

単元のマップ化を実現した教材は,大学生や社会人が,
高校以下の数学の特定分野を学び直したい場合にも,
威力を発揮すると思います。

例えば,次のようなケースが該当します。

  • 大学の経済学を学ぶために,
    高校数学Bの【数列】や高校数学Ⅲの【数列の極限】を
    手早く習得したい。ℹ️️
  • 仕事で統計学が必要になったので,
    その足がかりとして,高校数学Bの
    【確率分布と統計的な推測】を手早く習得したい。

単元のマップ化を実現した教材があれば,
それぞれのケースで学習目標となっている単元への
最短ルートを導き出し,短期間で
目標を達成できる可能性が大きく高まります。

学習目標の単元がはっきりしている場合でも,
せっかく数学を復習するのだから,
無理のない範囲で比較的幅広く復習しようと
考える方も多数いらっしゃるでしょう。

このように,最短ルートにこだわらない学習方針でも,
この記事で提案しているような教材は
効果を発揮するはずです。

その効果は,復習中の単元で
理解しにくい部分が生じた場合や,
その単元に飽きてきた場合などに現れます。

単元のマップ化がしっかりなされた教材を使っていれば,
その単元を省略できるのか,後回しにできるのか
といったことが的確に判断できるからです。

時間がある時には体系的な復習をしたい

学校の授業から大きく遅れた生徒が
この記事で提案するような教材を使う場合でも,
最短ルート復習は非常時限定とするのが望ましいでしょう。

最短ルート復習は,学校の授業が進み続けている中で,
数学の授業から取り残された生徒が,
授業が多少なりとも理解できる状態を
最短の期間で実現するための苦肉の策です。

この使い方を続けると,
現在学校の授業で扱っている単元を乗り切っても,
学校の授業が別の単元に進んだ時には,
同様の手順で別の復習計画を立てなくてはならなくなります。

長期休暇に入るまでは
それも仕方がないかもしれませんが,
長期休暇に入ったら,
学校の授業で既に通過した単元の「基本」を
片っ端から復習していくことも必要です。ℹ️️

長期休暇のうちに,既習範囲の「基本」が
揃った状態を実現できればしめたものです。

長期休暇明けには,特段の復習計画を立てる必要もなく,
学校の授業の基本的な部分は
大体理解できる状態になっているでしょう。

そうなれば,もはやその生徒にとって,
数学の授業を受けるストレスは,
そう大きいものではなくなっているはずです。

IT教材の場合は,学習者に単元マップを意識させないことも可能

本記事の考え方を使って,
IT技術を活用した教材を制作した場合は,
学習者に単元マップをそれほど意識させないまま
学習を進めてもらうことも可能かと思います。

例えば,中3【2次方程式】の「基本」を目標として
最短ルート復習を行いたい場合,
表1をもとに判断するなら,
中1【1次方程式】の「基本」と
中3【平方根】の「基本」が必要になります。

そこで,学習者または指導者に対して,
次のような質問をしていきます。ℹ️️

【平方根】の「基本」は理解できていますか?

  1. 自信あり
  2. 理解を確認してみたい
  3. 自信なし

このような質問を,前提となる単元全てについて行い,
全てについて (A) と判断されるなら,
【2次方程式】の学習を進めてもらいます。

その学習中に,前提の理解が足りない単元が判明したりしたら,
改めて,前提となる単元に戻って学習してもらいます。

上記の質問で (B) を選択した単元については,
小テスト等を行って判定します。

その小テストで理解不十分と判断された単元や,
(C) を選択した単元があれば,
さらにその単元を理解するための前提となる単元について,
上記の質問を行います。

このように,単元をさかのぼりながら質問に答えていくと,
コンピュータ内部では,その生徒が
【2次方程式】の「基本」を学ぶための
復習計画が組み上がっていくわけです。

学習の成果を可視化すると,生徒の意欲が上がりやすい

せっかくのIT教材ですから,
自動判定・自動計算して色々な情報を表示し,
学習者の気力の維持・増進に利用したいところです。

例えば,各単元を一覧表示しておいて,
次のようなことが分かるように
印や数値を表示します。

  • 各単元について,
    「基本」のみ攻略済み,
    「標準」まで攻略済み,
    「応用」まで攻略済みℹ️️
  • 各単元について,
    「基本」が攻略可能な状態,
    「標準」が攻略可能な状態,
    「応用」が攻略可能な状態
  • 各単元の「基本」「標準」「応用」の
    それぞれの進捗率
  • 中学数学全体の「基本」に対する進捗率,
    学年ごとの「標準」に対する進捗率など

これらはほんの一例であり,まだまだ色々考えられます。

これらのような機能があると,
攻略済みのエリアや攻略可能なエリアが
広がっていく実感を持てますし,
日々増えていく各種数値にモチベーションを高めつつ,
エリア全制覇や進捗率100%を目指して
意気が揚がる学習者も多いのではないでしょうか。

筆者自身も,気の進まない作業が続く時期に,
大雑把ながらその作業の進捗率の計算方法を考え,
日々進捗率とその上昇幅を記録することで,
何とかモチベーションを維持できたことがあります。

ゴールが近づいてくる実感と,
進捗率の上昇幅を大きく落としたくないとの思いから
頑張れたような気がしています。

利用者は,学校の授業から遅れた生徒に限らない

単元がマップ化されたIT活用の数学教材が
生み出された場合,その教材の恩恵を受けるのは,
学校の授業から遅れた生徒だけではありません。

そのような教材があれば,
各単元の学習順にかなりの自由度が生じます。

ですから,幾何分野より代数分野に強い興味がある生徒の場合,
中2数学の【合同な図形】より先に
中3数学の【2次方程式】を学習するといったことが
可能になります。⚠️

その調子で,高校数学の代数分野を
どんどん開拓していく中学生も
多数現れるのではないでしょうか。ℹ️️

筆者がこの記事でこのような教材を提案しているのは,
学校の授業から遅れた生徒への支援が主たる目的ですが,
中位以上の生徒を伸ばす効果も期待できると考えています。

途中でやめても無駄にはならない

そのような自主学習に夢中になっていた生徒が,
飽きたり,時間が確保できなくなったりして
その学習をやめてしまっても,
それまでに行った学習が無駄になることはありません。

部分的にではありますが,
予備知識が他の生徒より格段に多くなりますから,
学校の授業において理解が早く,かつ深くなりますし,
難しい問題が解けるようになる可能性も高まります。

また,部分的にでも数学に強くなった生徒は,
その後,学校の数学の授業から遅れる危険性や,
遅れた場合の影響が小さくなると言えます。

上記の自主学習をやめた生徒に,苦手な単元が発生し,
学校の数学の授業が理解できない状態になることは
十分ありうるでしょう。

しかし,その場合でも,学校の授業が
その生徒がかなりの程度学習済みである単元に進んだ場合,
そこで生じる時間的余裕を利用して,
苦手な単元を復習するチャンスが得られます。

そのような効果が期待できるので,
生徒がその教材を利用した自主学習から離れてしまっても,
続けるようにせっつく必要はありません。

学校の授業進度に合わせた学習を
しっかり行っていれば大丈夫です。

まとめ

この記事では,学校の授業から遅れた生徒を
支援するための教材に求められる特性について考え,
そのような教材の実現案を紹介しました。

この記事で示した案については,
筆者が把握しているだけでも
まだまだ考えるべき点があり,
実現はそう簡単ではないと思います。

しかし,これこそが,
授業から大きく遅れた生徒を支援する手段として
真に求められる教材の形態ではないかと考えています。

この記事の内容に有用な部分ありと考えてくださる
教材制作者の方は,筆者の許可等は必要ありませんので,
ぜひ,その考え方を教材に
取り入れてみていただきたいと思います。

筆者自身も,このような教材の開発プロジェクトがあれば
参加を検討したいところです。⚠️


最後まで読んでいただきありがとうございます。
参考になれば幸いです。

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