【数学教育アイデア素材】序文 | 数学を学び,学ばせるのは何のためか

前ページのあらすじ

前ページでは,当サイトの目的が
数学で無駄に苦しむ人を減らすことであることを表明し,
この序文で主張することをリストアップしました。

それを受けて,このページから本論に入ります。

学校における数学教育の現状と問題点

日本人に数学嫌いが多い理由

日本人に数学嫌いが多い原因は,
はっきりしていると思います。

学校で,既習事項の理解が不十分な生徒にも,
新しい理論を学ばせるからです。

他にも考えられますが,
これが最大の原因であることは
間違いないと思います。

学校の授業から一度大きく遅れると,取り戻すのは厳しい

昔から言われているように,数学は積み上げ教科です。

以前学んだ理論や技能を使って,
新しい学習内容が説明されます。

そのため,以前学んだ内容の理解が不足していると,
新しい理論の学習に,著しく支障をきたすことがあります。

さて,日本の学校では,原則として,
以前学んだ内容の理解度にかかわらず,
同じ年度に生まれた生徒には同じ内容,
同じ難度の授業を受けさせます。

ある単元の内容がしっくりこないまま
学校の授業が進んだとしても,
その場しのぎの暗記などにより,
その時期の定期試験は乗り切れることもあるでしょう。

しかしその後,その単元の内容をふんだんに使って
新しい理論を説明されると,手も足も出なくなります。

多くの数学嫌いを生みだす土壌

その状況で,生徒自身が危機感を持って復習に精を出したり,
先生が熱心に指導したりすることで,
その学習段階で求められる理解水準に
追いつければ良いのですが,
うまくいかないことも多いでしょう。

生徒自身にそこまで熱意がないこともありますし,
悩みや心配事でそれどころではないこともあります。

また,先生の方に,
個々の生徒にきめ細かく対応できるだけの
余裕が無いこともあります。

そうでなくとも,
現在学習中の単元の前提となる単元まで含めて
生徒の理解があまりに不足しており,
短期間ではどうにもならないようなケースも
多々あるに違いありません。

しかしそれでも,生徒は進級・卒業のために
数学の単位を取得しなければなりませんし,
先生としてもできる限り
単位を取らせなければなりません。⚠️

そのような時,学校教育現場では,
どのように対処するでしょうか。

理解度が低くてもクリアできる追試や課題を用意して,
それにより単位を認める。

それが実情です。
そうならざるをえません。

すなわち,理解度が低いままで進級させ,
さらに高度な数学を学ばせるのです。

その生徒の理解度と,
当該学年で期待される理解度のギャップはさらに開き,
ますます理解不能になった授業を
延々と聞かされることになります。

そしてまた,定期試験の時期がやってきて,
ある程度の点数を確保するよう
プレッシャーをかけられるわけです。

これは,あえて言葉を選ばずに表現しますが,
拷問のように感じている生徒も
少なくないのではないでしょうか。⚠️

このような現状では,
数学嫌いの人が多数生み出されるのも
当然であると感じてしまいます。

学校の授業から取り残されたというほどではなくとも,
曖昧あいまいな理解のままで新しい理論を
無理に学んでいる生徒は無数にいるでしょう。

その人達にとっても,
数学の学びは相当なストレスであるはずです。

  • 理解不可能な部分にたびたび出会う。
  • 問題が解けたと思っても,論理の欠陥を指摘される。
  • 時間をかけているわりに理解が進まず,
    その状態で定期試験に臨まざるを得ない。

そのような生徒を含めると,
数学の学びに大きなストレスを抱えている生徒は
かなりの数にのぼるに違いありません。

日本人は,国際的に数学の学力は高い方であるけれども,
数学が嫌いな人が非常に多いという調査結果をよく目にします。

筆者自身は数学が嫌いではありませんので,
以前はそのような調査結果を不思議に思っていましたが,
考えが概ねまとまった今では,
むしろそれで当然としか思えなくなりました。

日本人の数学嫌いを緩和するには

前提となる理解が大きく不足したままで新しい単元に進まない

多くの数学嫌いを生み出してしまう
日本の数学教育界の現状は,
どうしたら解決に近づくでしょうか。

解決指針を手短に言うなら,

前提となる理解が大きく不足したままで
新しい単元に進まない。

これに尽きますね。

時間的な制約を気にする必要がないのであれば,
理解が進まない生徒には再度教えたり,
生徒が分かっているところまで
戻って教えたりするでしょう。

数学においては,この方針はとりわけ重要です。

時間の制約がある中でも,
できる限りその方針で指導するべきだと思います。

ただ,この方針は,
集団授業をベースとする学校教育で実現するには,
考えるべきことや変更すべきことが非常に多いです。

  • 指導内容
  • 到達度確認および単位認定の方法
  • 1つの授業で教える生徒の選び方・集め方

他にもまだまだあるでしょう。

もしかしたら,学校教育制度にまで
手を加える必要が生じるかもしれません。

理想論としては,たとえ大がかりになっても,
前述の方針は学校の数学教育で
実現を目指すべきだと思います。

しかし,現実問題として,中高生や教育関係者は,
現状の学校教育に対応していくことも求められます。

当サイトでは,上記の理想論と現実問題の両面から,
様々な参考意見を提示していきたいと考えています。

数学嫌いは,数学の楽しさを伝える方針では改善しない

数学の学習指導要領では,
数学の楽しさを伝えることが重要視されています。

試しに,インターネット上で公開されている
「中学校学習指導要領(平成29年告示)解説 数学編」で,
「楽しさ」を文字列検索してみると,
43件もヒットしました。

なかなかの強調ぶりだなと思いました。

ただ,「高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説
数学編 理数編」
だと,
6件まで激減するのが面白いところではあります。

実際,数学教育の工夫というと,
数学の楽しさをいかに伝えるか」を考える人が
圧倒的に多いようです。

それはもちろん結構なことです。
可能な限り,伝えていただければと思います。

しかし同時に,気になる点があります。

もしかしたら,

  • 日本人に数学嫌いの人が多いのは,
    数学の楽しさが分かっていないからである。
  • 数学の楽しさがしっかり伝われば,
    日本人の数学嫌いは緩和される。

と思っている人が多いのではないかということです。

そのようなお考えをお持ちの方に対して,
ぜひ主張したいことがあります。

数学の楽しさを伝える方針では,
数学が好きな人は増えると思いますが,
数学が嫌いな人は減らないだろうということです。

数学の理解で四苦八苦している生徒に
「楽しい話題」を提供しても,
よほど単純な話題でなければ,
「それも理解しないといけない?」と,
負担感を増幅させるだけですから。ℹ️

より深い考察については,
序文に書くには細かすぎる気がするので,
別の記事にまとめました。

関連記事

よければ,こちらも併せてご参照ください。

次ページの内容

日本人の数学嫌いを緩和するには,
既習事項が理解できていない状態で
それらを前提とする理論を学ばせることを
控える必要がありそうです。

しかし,それによって,数学を学ぶことの効用が
大きく減ってしまうなら,それは避けたいところです。

数学の学びの負担は減らしつつ,効用は減らさない。

そのような方法を考え出すには,
まず,数学を学ぶことの効用
詳細に分析する必要があるでしょう。

次ページにて,
その分析を行ってみたいと思います。

PAGE TOP