前ページまでのあらすじ
次の条件を満たす2線分 $\rm AB,\ A’B’$ が,
回転移動1回で重ねられるかどうかを考えています。
- 2線分 $\rm AB,\ A’B’$ は長さが等しい。
- 2点 $\rm A,\ A’$ は一致しない。
2点 $\rm B,\ B’$ も一致しない。
- 2直線 $\rm AA’,\ BB’$ は平行でも同一でもない。
複素数平面上で,4点 $\rm A(\alpha),\ B(\beta),\ A'(\alpha\,’),\ B(\beta\,’)$ が
上の条件を満たすとき,
2線分 $\rm AA’,\ BB’$ の垂直二等分線には
ただ1つの交点が存在します。
それを $\rm C(\gamma)$ とおくと,次の式が成り立ちます。
- $|\,\alpha-\beta\,|=|\,\alpha\,’-\beta\,’\,|$ …… ①
- $|\,\alpha-\gamma\,|=|\,\alpha\,’-\gamma\,|$ …… ②
- $|\,\beta-\gamma\,|=|\,\beta\,’-\gamma\,|$ …… ③
このとき,$\angle\,\alpha\,\gamma\,\alpha\,’=\angle\,\beta\,\gamma\,\beta\,’$ が成り立つかどうかを
調べたいのですが,これは
$\arg\dfrac{\alpha\,’-\gamma}{\alpha-\gamma}=\arg\dfrac{\beta\,’-\gamma}{\beta-\gamma}$ …… ④
と同値ですので,④が成り立つかどうかを
調べればよいことになります。
ヒント2 それぞれの式の扱い
複素数平面では,絶対値を見たら $\boldsymbol{|\,\alpha\,|^2=\alpha\overline\alpha}$
上記の①~③は,いずれも
複素数の絶対値が等しいという式ですね。
複素数平面では,絶対値を見たら,
$|\,\alpha\,|^2=\alpha\overline\alpha$ …… ⑤
という公式の適用を考えるのが
1つのコツになるようです。
ただ,この公式を使って,
①~③の両辺を2乗した上でバラバラに展開しても,
うまくいきそうな予感は持てませんでした。
点 $\rm C$ を始点とするベクトルという発想
「$\boldsymbol{\alpha-\gamma}$」や「$\boldsymbol{\beta-\gamma}$」の形を保った方がうまくいく?
式変形のしかたにもよるのでしょうが,このケースでは,
「$\,\boldsymbol{\lower{1pt}{\square}-\gamma}\,$」の形,つまり「$\alpha-\gamma$」や「$\beta-\gamma$」の形を
保ちながら式変形した方がうまくいくようです。
その形が含まれない①についても,
次のように変形してしまいます。
$|\,(\alpha-\gamma)-(\beta-\gamma)\,|=|\,(\alpha\,’-\gamma)-(\beta\,’-\gamma)\,|$
さらに,$\alpha-\gamma=\alpha_\gamma\,$,$\beta-\gamma=\beta_\gamma\,$,$\alpha\,’-\gamma=\alpha\,’_\gamma\,$,$\beta\,’-\gamma=\beta\,’_\gamma$ のように,
記号も書き換えてしまいましょう。
平行でない2線分 $\rm AA’,\ BB’$ の
垂直二等分線の交点が $\rm C(\gamma)$ であるため,
点 $\rm C$ が4点 $\rm A,\ A’,\ B,\ B’$ のいずれかと
一致することはありませんから,
$\alpha_\gamma,\ \beta_\gamma,\ \alpha\,’_\gamma,\ \beta\,’_\gamma$ はいずれも$\raise{0.25pt}{\;0\;}$ではないと言えます。
なお,このあたりの話は,
点 $\rm C$ を始点とするベクトルを思い浮かべると
一気に理解しやすくなると思います。
ベクトルとの類似点
点 $\rm A,\ B,\ A’,\ B’,\ C$ の位置ベクトルを,
それぞれ $\vec{a\vphantom{a’}},\ \vec{b},\ \vec{a\,’},\ \vec{b\,’},\ \vec{c\vphantom{a’}}$ とします。
このとき,例えば,$\rm AB=A’B’$ という条件は,
ベクトルを使って表すなら $\rm |\,\overrightarrow{AB}\,|=|\,\overrightarrow{A’B’}\,|$ であり,
つまり $|\,\vec{b}-\vec{a\vphantom{a’}}\,|=|\,\vec{b\,’}-\vec{a\,’}\,|$ です。
これは,$|\,\alpha-\beta\,|=|\,\alpha\,’-\beta\,’\,|$(①)と
非常によく似ています。⚠️文字の順序の違いが気になるかもしれませんが,
ベクトルの差の大きさや複素数の差の絶対値では
値に影響しないので問題ありません。
角の向きについてひとまず忘れてベクトルで考えるなら,
この問題は要するに,
$\overrightarrow{\rm CA}$ と $\overrightarrow{\rm CA’}$ のなす角と, $\overrightarrow{\rm CB}$ と $\overrightarrow{\rm CB’}$ のなす角が
等しいかどうかを考えているのです。
だから,$\overrightarrow{\rm AB}$ や $\overrightarrow{\rm A’B’}$ を式の中に残すよりは,
$\overrightarrow{\rm AB}=\overrightarrow{\rm CB}-\overrightarrow{\rm CA}$ などと書き換えてしまった方が
よいかもしれないという発想が出てくるわけです。
少し上で,①を
$|\,(\alpha-\gamma)-(\beta-\gamma)\,|=|\,(\alpha\,’-\gamma)-(\beta\,’-\gamma)\,|$
と書き換えていますが,これは,$\rm |\,\overrightarrow{AB}\,|=|\,\overrightarrow{A’B’}\,|$ を
$\rm |\,\overrightarrow{\rm CB}-\overrightarrow{\rm CA}\,|=|\,\overrightarrow{\rm CB’}-\overrightarrow{\rm CA’}\,|$
と変形した後,位置ベクトルを用いて,
$|\,(\vec{b}-\vec{c\vphantom{a’}})-(\vec{a\vphantom{a’}}-\vec{c\vphantom{a’}})\,|=|\,(\vec{b\,’}-\vec{c\vphantom{a’}})-(\vec{a\,’}-\vec{c\vphantom{a’}})\,|$
のように書き換えるのとよく似た考え方です。
実は筆者は,複素数平面の利用を試す前に,
ベクトルを使って本記事のテーマについて考えていました。
まあまあいいところまで迫ったと思うのですが,
初等幾何と同様に,
角の向きについて気持ち悪さが残ったため
中止したという経緯があります。
その経緯があったからこそ,
筆者からはこのアイデアが出やすかったと
言えるかもしれません。
記号の置き換えの結果
上記の記号の書き換えを利用すると,
①~④は次のようになります。
- $|\,\alpha_\gamma-\beta_\gamma\,|=|\,\alpha\,’_\gamma-\beta\,’_\gamma\,|$ …… ①$’$
- $|\,\alpha_\gamma\,|=|\,\alpha\,’_\gamma\,|$ …… ②$’$
- $|\,\beta_\gamma\,|=|\,\beta\,’_\gamma\,|$ …… ③$’$
- $\arg\dfrac{\alpha\,’_\gamma}{\alpha_\gamma}=\arg\dfrac{\beta\,’_\gamma}{\beta_\gamma}$ …… ④$’$
記事をほぼ書き終えてから気づいたのですが,
垂直二等分線の交点として
点 $\rm C$ の位置が確定した後に
複素数平面を導入するという考え方の方が
簡単だったと思います。
その複素数平面では,点 $\rm C$ の位置を原点とし,
他の各点は,これまでの議論と同様,
$\rm A(\alpha),\ B(\beta),\ A'(\alpha\,’),\ B(\beta\,’)$ とおきます。
この考え方でも,任意の位置関係の
2線分 $\rm AB,\ A’B’$ について考察できるので
支障はありません。
この場合,式②~④の $\gamma$ が $0$ になりますから,
式①~④は次のようになるわけです。
- $|\,\alpha-\beta\,|=|\,\alpha\,’-\beta\,’\,|$
- $|\,\alpha\,|=|\,\alpha\,’\,|$
- $|\,\beta\,|=|\,\beta\,’\,|$
- $\arg\dfrac{\alpha\,’}{\alpha}=\arg\dfrac{\beta\,’}{\beta}$
上記の①$’$~④$’$とほぼ同じですね。
気が向いたら,記事をその方向に
書き直すかもしれません。
次ページの内容
上記の①$’$~③$’$をもとにして,④$’$の証明を試みます。
ほとんどのケースで④$’$は成立すると予想されますが,
例外があるのかどうか。
次ページにて最終決着です。