前ページまでのあらすじ
本記事のテーマは,裏返し不要の位置にある2つの図形が,
平行移動1回または回転移動1回だけで重ねられると
言えるかどうかの検討です。
そのテーマは,これまでの考察で,
次の主張(命題)が正しいかどうかに集約されたと言えます。
この主張が正しいかどうかを,
複素数平面を用いて検証したいと思います。
ヒント1 問題の整理と設定
検討対象となる状況
これから先,検討の対象にするのは,次のような状況です。
平面上に長さの等しい2線分 $\rm AB,\ A’B’$ があり,
2線分$\;\rm AA’,\ BB’\;$にそれぞれ垂直二等分線がひけて,
その2直線の交点が1つに定まる。
細分化して整理すると,次のようになります。
- 平面上に,長さの等しい2線分 $\rm AB,\ A’B’$ がある。
- 2点 $\rm A,\ A’$ は一致しない。
2点 $\rm B,\ B’$ も一致しない。 - 2直線 $\rm AA’,\ BB’$ は,平行でも同一でもない。
該当する図をいくつか挙げておきます。






これらの図は,いかにも点 $\rm C$ を中心とする回転移動で
線分 $\rm AB$ を線分 $\rm A’B’$ に重ねられそうな
描き方をしていますが,それが可能であるのは,
$\rm\angle\,ACA’=\angle\,BCB’$
が成立する場合です。
はたして,長さの等しい2線分 $\rm AB,\ A’B’$ を配置したとき,
先に挙げた条件を満たしていれば,
常に $\rm\angle\,ACA’=\angle\,BCB’$ であると言えるのでしょうか。
また,例外があるなら,
それがどのような場合かを探っていきます。
複素数平面上の設定
長い長い前置きをようやく終えて,
本論に入ります。
まず,4点 $\rm A,\ B,\ A’,\ B’$ が複素数平面上にあるとして,
対応する複素数をそれぞれ $\alpha,\ \beta,\ \alpha\,’,\ \beta\,’$ とします。
また,前述した仮定より,2直線 $\rm AA’,\ BB’$ は存在し,
しかもそれらは平行でも同一でもないので,
2線分 $\rm AA’,\ BB’$ の垂直二等分線は1点で交わります。
その交点を $\rm C(\gamma)$ とします。
複素数表記付きの図を1つ示しておきます。

この状況下で成立すること
まず,この状況下で成立する等式をまとめます。
- $\rm AB=A’B’$ より,
$|\,\alpha-\beta\,|=|\,\alpha\,’-\beta\,’\,|$ …… ① - $\rm AC=A’C$ より,
$|\,\alpha-\gamma\,|=|\,\alpha\,’-\gamma\,|$ …… ② - $\rm BC=B’C$ より,
$|\,\beta-\gamma\,|=|\,\beta\,’-\gamma\,|$ …… ③
証明したいこと
2点 $\rm A,\ A’$ からの距離が等しく,
かつ2点 $\rm B,\ B’$ からの距離も等しいただ1つの点を
$\rm C$ としているわけですから,
回転の中心は当然点 $\rm C$ です。
この場合,点 $\rm C$ を中心として
線分 $\rm AB$ を回転移動することで
線分 $\rm A’B’$ に重ねることができるための
必要十分条件は,
$\rm \angle ACA’=\angle BCB’$
です。
ただし,これは,既に注意を促しましたが,
角の向きも含めて等しくなければなりません。
ですから,複素数を使って,
$\angle\,\alpha\,\gamma\,\alpha\,’=\angle\,\beta\,\gamma\,\beta\,’$
と書いた方が正確でしょう。
この式は,偏角の記号 $\arg$ を使うと,
$\arg\dfrac{\alpha\,’-\gamma}{\alpha-\gamma}=\arg\dfrac{\beta\,’-\gamma}{\beta-\gamma}$ …… ④
と表せます。
考えるべきことは,①~③が成り立てば,
④も必ず成り立つのかどうかです。
次ページの内容
①~③の式の扱いには,
ある工夫が必要になるようです。
その工夫について解説します。