前ページまでのあらすじ
平面上に置かれた合同な図形の
移動による重ね合わせについて,
次の主張(命題)が正しいかどうかを
考えてみようという話になりました。
前ページでは,これを初等幾何で解決する場合の
難点を説明しました。
導入4 複素数平面を使う理由
前ページで説明した通り,筆者は,
この問題を初等幾何で解決するのは難しいと判断しました。
ので,別の手段を試したいと思います。
別の手段の候補としては,
座標平面,三角比,ベクトルなどが思い浮かびます。
しかし筆者は,多くの高校生が敬遠しそうな
複素数平面を選びました。
その理由は,複素数平面では,
角の向き(角の正負)を考えることができるからです。
図 4-1
![](https://me-idea-parts.uvs.jp/wp-content/uploads/task-rot-movement-only-once-04-01.png)
この図では,長さの等しい線分 $\rm AB,\ A’B’$ が
点 $\rm C$ で交わっていて,
しかも $\rm CA=CA’$ となっています。
(よって $\rm CB=CB’$ でもあります。)
このとき, $\rm\angle\,ACA’=\angle\,BCB’$ でもあることから,
点 $\rm C$ を中心とする回転移動で,
線分 $\rm AB$ を線分 $\rm A’B’$ に重ねることができます。
$\rm\angle\,ACA’=\angle\,BCB’=\theta$ と表した場合,
点 $\rm C$ を中心として反時計回りに $\theta$ だけ回転すれば,
点 $\rm A$ は点 $\rm A’$ に,点 $\rm B$ は点 $\rm B’$ に
それぞれ重ねられるからです。
ではもう1つ,次の図について考えてみます。
図 4-2
![](https://me-idea-parts.uvs.jp/wp-content/uploads/task-rot-movement-only-once-04-02.png)
この図は,図 4-1の点 $\rm B$ と点 $\rm B’$ の位置を
入れかえたものです。
従って,この図 4-2においても,
$\rm AB=A’B’$
$\rm CA=CA’$
$\rm CB=CB’$
$\rm\angle\,ACA’=\angle\,BCB’$
が成り立ちます。
しかし,この図の線分 $\rm AB$ を,
点 $\rm C$ を中心とする回転移動で
線分 $\rm A’B’$ に重ねることはできません。
角の向きが異なるためです。
角の向きの違いを,複素数平面なら考慮できる
図 4-1 では,点 $\rm C$ を中心とする回転移動で点 $\rm A$ を点 $\rm A’$ に,点 $\rm B$ を点 $\rm B’$ に移すときの回転角は,同じ向きでした。図 4-1$\,\boldsymbol{\vphantom{a}’}$
![](https://me-idea-parts.uvs.jp/wp-content/uploads/task-rot-movement-only-once-04-03.png)
一方,図 4-2では,点 $\rm C$ を中心とする回転移動で点 $\rm A$ を点 $\rm A’$ に,点 $\rm B$ を点 $\rm B’$ に移すときの回転角は,
逆の向きになっています。
図 4-2$\,\boldsymbol{\vphantom{a}’}$
![](https://me-idea-parts.uvs.jp/wp-content/uploads/task-rot-movement-only-once-04-04.png)
片方は時計回り,もう片方は反時計回りになっていますね。
だから,この図の線分 $\rm AB$ は,
点 $\rm C$ を中心とする回転移動で
線分 $\rm AB$ に重ねることはできないわけです。
本記事のテーマで複素数平面を使いたくなった理由は
ここにあります。
複素数平面では,2つの角について,
大きさが同じであっても,向きが異なる場合,
それらの角は等しくないと見なします。
そのため,図 4-2$\,’$ の $\rm\angle\,ACA’$ と $\rm\angle\,BCB’$ は
等しくないという判断が,
複素数平面なら自然にできるのです。
垂直二等分線の交点の位置は問題にならない
初等幾何による検討では,
2本の垂直二等分線の交点 $\rm C$ の位置が問題になりましたが,
それは,$\rm\angle\,ACB$ や $\rm\angle\,A’CB’$ を介して
証明しようとしたからです。
次の2つの図は,前ページで,
点 $\rm C$ の位置次第で同じ証明が通用しなくなる例として挙げた
図 3-1,図 3-2に対し,
回転移動の角($\rm\angle\,ACA’$,$\rm\angle\,BCB’$)を図示したものです。
図 3-1$\,\boldsymbol{\vphantom{a}’}$
![](https://me-idea-parts.uvs.jp/wp-content/uploads/task-rot-movement-only-once-04-06.png)
図 3-2$\,\boldsymbol{\vphantom{a}’}$ (※不正確な図)
この2つの図のいずれについても,
点 $\rm C$ が $\rm CA=CA’$,$\rm CB=CB’$ を満たす点である場合,
あとは $\rm\angle\,ACA’$ と $\rm\angle\,BCB’$ が
角の向きを含めて等しいことさえ証明できれば,
点 $\rm C$ を中心とする回転移動1回で
線分 $\rm AB$ を線分 $\rm A’B’$ に重ねられると言えます。
複素数平面ならそのような考察が可能であり,
点 $\rm C$ がどこにあろうと,その考察に影響することはありません。
これが,本記事のテーマにおいて,
初等幾何よりも複素数平面の方が有効だと思われる理由です。
次ページの内容
次ページより,本格的に複素数平面による検討に入ります。
はたして,2本の垂直二等分線の交点が
1つに決まる配置であれば,
1回の回転移動で2線分を重ねられると言えるのでしょうか。
それとも,例外があるのでしょうか。
複素数平面を用いた考察に自信のある方は,
ここから自力で考えてみられるのもよいと思います。
(でもまだかなり難しいかも…)