前ページまでのあらすじ
平面上に置かれた合同な図形の
移動による重ね合わせについて,
次の主張(命題)が正しいかどうかを
考えてみようという話になりました。
この主張が正しければ,次の定理が成り立つと言えるため,
本記事のテーマについて考えるにあたり,
重要な検討事項になります。
平面上で,2つの合同な図形が
裏返し不要の位置にあるとき,
その2つの図形は,平行移動1回または回転移動1回で,
片方を他方に重ね合わせることができる。
(※まだ真偽不明)
導入3 まず初等幾何で考えてみる
初等幾何でもある程度迫れるが
この問題について考えるとしたら,
初等幾何による解決を試みる人が多いでしょう。
実際,初等幾何でもある程度,答えに迫れます。
例えば,2線分 $\rm AB,\ A’B’$ が,
図のように配置されている場合について考えます。
図 3-1

この図では,2線分 $\rm AB,\ A’B’$が交わっており,
その交点を $\rm P$ としています。
さて,検証したいのは,
$\rm\angle\,ACA’=\angle\,BCB’$ …… ②
であるかどうかです。
この図のケースに限れば,②が正しいことは証明できます。
証明の詳細は省略しますが,方針としては,
$\rm\triangle CAB\equiv\triangle CA’B’$ を示し,
それを利用すれば解決します。
垂直二等分線の交点は本当にそこにあるのか
しかし,この証明方法には疑問が残ります。
図 3-1 において,点 $\rm C$ は $\rm\angle\,A’PB$ の内部に描かれていますが, 本当にその位置にあると断言してよいのでしょうか。点 $\rm C$ が線分 $\rm A’B’$ 上にあるとか,
$\rm\angle\,APA’$ の内部にあるといった可能性は
ないのでしょうか。
図 3-2 (※不正確な図)
もしも,点 $\rm C$ がこの図のような位置にあるとしたら,
上記の証明方法は通用しません。
つまり,②を証明したければ,
点 $\rm C$ が $\rm\angle\,A’PB$ の内部にあることの証明から
始める必要があると考えられます。
その証明は,かなり難しいのではないでしょうか。
筆者は,この疑問に対し,
初等幾何による解決方法を思いついていません。
全ての場合を考慮し尽くすのも難しい
そうでなくても,図 3-1の位置関係について,
2線分を回転移動1回で重ねられることが
証明できたからと言って,
どんな位置関係の2線分についても
同様であるというのは暴論でしょう。
次の図について考えてみてください。
図 3-3

この図についての証明は,
$\rm\triangle CAB\equiv\triangle CA’B’$ までは
図 3-1 と同様ですが,その後,
$\rm\angle\,ACA’=\angle\,BCB’$(②)を示す部分が若干異なります。
このように,2線分 $\rm AB,\ A’B’$ の配置が異なれば,
証明も異なる可能性があります。
もちろん,図 3-1 と 図 3-3 の場合だけで
十分かどうかも分かりません。
また,図 3-1 について前述した,
点 $\rm C$ が本当にそこにあるのかという問題は,
当然 図 3-3にもついて回ります。
初等幾何で解決するのは難しそう
これらのような難点があるため,
筆者はこの問題を初等幾何で解決するのは諦めました。
そして,別の解決手段として考えたのが,
高校数学Cで学ぶ「複素数平面」です。
次ページの内容
次ページでは,別の手段として
座標平面,三角比,ベクトルなども考えられる中で,
複素数平面を選んだ理由を説明します。