前ページまでのあらすじ
教科書や参考書には,次の形の半角の公式が
載っていることがあります。
$\tan^2\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1-\cos\theta}{1+\cos\theta}$ …… ①
この記事では,この公式には次のような改良版が
考えられるのではないかと考え,検討してきました。
$\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ …… ②
$\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1-\cos\theta}{\sin\theta}$ …… ③
前ページまでで,②は公式として問題なく使えそう,
③は使えなくはないものの注意を要するという結論に
至っています。
なお,前ページでは,②と③を直接導くのではなく,
次の2つの等式を導いてから,
$\theta$ を $\dfrac{\theta}{2}$ に置きかえて②,③を得るという手順を採用しました。
$\tan\theta=\dfrac{\sin 2\theta}{1+\cos 2\theta}$ …… ④
$\tan\theta=\dfrac{1-\cos 2\theta}{\sin 2\theta}$ …… ⑤
解説2 公式の導出過程の精査
公式を導く式変形のどこがまずかったのか
前ページに書いた通り,等式③は,
両辺の定義域が一致しないため,
公式として使うには注意を要します。
前ページでは,等式③と実質的に同じ等式⑤を
式変形で導いたのですが,
その式変形にまずいところがあったのでしょうか。
分子と分母に $\sin\theta$ をかけたのが安易だった
等式⑤を導く途中で,次のような変形を行っています。
$\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}=\dfrac{2\sin^2\theta}{2\sin\theta\cos\theta}$ ……(※1)
分子と分母に,$2\sin\theta$ をかけているわけですね。
分子と分母に同じ数をかけても値は変わらないので,
問題なさそうに見えます。
しかし,これがまずかったのです。
分子と分母に,値が $0$ になる可能性のある式をかけてはいけない
つい先程,「分子と分母に同じ数をかけても値は変わらない」
と書きましたが,それは当然,
「同じ数」が $0$ でないことが大前提ですよね。
分子と分母に $0$ をかけたら,$\dfrac{0}{0}$ となって,
値が定義できなくなってしまいますから。
前述の通り,(※1)の式変形は,
分子と分母に $2\sin\theta$ をかけるというものです。
これは,$2$ をかけてから $\sin\theta$ をかけるのと同じです。
分子と分母に $2$ をかけるのは構いません。
$2$ が $0$ と等しくなることはありませんので。
しかし,$\sin\theta$ は $0$ と等しくなる可能性があります。
従って,$\sin\theta$ を分子と分母にかけるのであれば,
それは「$\sin\theta\;$$\neqq$$\,0$ のとき」とし,
$\sin\theta=0$ となる場合については別に調べる必要があったのです。
定義域が変化したのもこのタイミング
前ページで問題になった「定義域の違い」が生じたのも,
このタイミングです。
実際,(※1)の両辺は,定義域が一致していません。
(※1)の左辺の式の値が定義できないのは,
$\cos\theta$ が $0$ になるときですから,
$\theta=\dfrac{(2n+1)\pi}{2}$ ( $n$ は整数)
と表せるときだけです。
一方,(※1)の右辺は,$\cos\theta=0$ の場合のほか,
$\sin\theta=0$ となる場合も,値が定義できなくなります。
これは,
$\theta=\dfrac{n\pi}{2}$ ( $n$ は整数)
と表せるときですから,左辺の値が定義できるにもかかわらず,右辺の値が定義できないケースがあることが分かります。
もう一方の等式が大丈夫だったのはなぜか
公式として検討中の等式②,③のうち,
③を導くときの式変形に穴があったことは,前述の通りです。
では,②はどうだったのでしょうか。
前ページでは,等式②と実質的に同じ等式④を式変形で
導いたのですが,その途中で,
次のような変形を行っています。
$\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}=\dfrac{2\sin\theta\cos\theta}{2\cos^2\theta}$ ……(※2)
分子と分母に $2\cos\theta$ をかけていますね。
$2$ をかけるのはよいとして,
$\cos\theta$ をかけているのがどうなのかです。
これは,結果的には大丈夫です。
(※2)の左辺は,分母が $\cos\theta$ ですから,
$\cos\theta=0$ となる $\theta$ についてのみ値が定義できず,
それ以外の場合は定義できます。
従って,$\cos\theta\;$$\neqq$$\,0$ の場合については,
分子と分母に $\cos\theta$ をかけても値は変わらないため,
(※2)の等号は文句なく成立します。
一方,$\cos\theta=0$ の場合に,
(※2)の両辺のうち片方だけ値が定義できるなんてことが
あるとまずいのですが,
(※2)の場合は両辺とも定義できないので
大丈夫だったというわけです。
どうやら1つは,新しい公式として採用できそう
ということで,等式②は,
新しい半角の公式として採用しても大丈夫のようです。
となると,問題は,新しい公式に
存在価値があるかどうかです。
すなわち,この公式②を使うと,
教科書に載るタイプの公式①を使う場合に比べて,
計算が楽になるとか,問題が解きやすくなるといった利点が
あるかどうかです。
次ページの内容
新しい公式として採用できそうな等式②の存在価値について
考えます。