前ページまでのあらすじ
教科書や参考書には,次の形の半角の公式が
載っていることがあります。
$\tan^2\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1-\cos\theta}{1+\cos\theta}$ …… ③
しかし,図による考察で,$\theta$ が鋭角でも鈍角でも,
次の等式が成り立つことが分かりました。
$\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ ……(※1)
この等式は,もしかしたら常に成り立つのでは?
そしたら,これを公式として使えるのでは?
…との期待感から,いっそのこと(※1)の証明に
挑戦してみようかという話になっています。
実際,$\tan^2$ の値しか求められず, $\tan$ の値が確定しない公式③より,よっぽど使いやすい式ですから。
なお,(※1)を証明しようとすると,$\dfrac{\theta}{2}$ が多数出てきて,
式が煩雑になりそうです。
次の等式を証明してから,$\theta$ を $\dfrac{\theta}{2}$ に置きかえて
(※1)を得るという方針で考えるとよいでしょう。
$\tan\theta=\dfrac{\sin 2\theta}{1+\cos 2\theta}$ ……(※2)
解説1 新しい公式
得られた等式の証明
(※2)の証明を試みる場合,右辺から式変形を始めて,
左辺の形を目指す方が,その逆(左辺から右辺)に比べると簡単そうです。
2倍角の公式がありますから。
\begin{eqnarray*}
\sin 2\theta=2\sin\theta\cos\theta
\end{eqnarray*}
\begin{eqnarray*}
\cos 2\theta&=&\cos^2\theta-\sin^2\theta\\
&=&2\cos^2\theta-1\\
&=&1-2\sin^2\theta
\end{eqnarray*}
では,(※2)の証明に挑戦してみます。
\begin{eqnarray*}
\style{font-size: 110%}{\text{(※2)の右辺}}&=&\dfrac{\sin 2\theta}{1+\cos 2\theta}\\
&=&\dfrac{2\sin\theta\cos\theta}{1+(2\cos^2\theta-1)} \vphantom{\Large\dfrac{1}{1}}\\
&=&\dfrac{2\sin\theta\cos\theta}{2\cos^2\theta} \vphantom{\Large\dfrac{1}{1}}\\
&=&\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}=\tan\theta \vphantom{\Large\dfrac{1}{1}}
\end{eqnarray*}
終わり。
別段,難しくもありませんでした。
どこも間違っていないですよね。
筆者は,このサイトの記事を自分だけで検証して
公開しているので,何か穴がある可能性もありますが,
筆者はこの証明は大丈夫だろうと判断しています。
つまり筆者は,結論として,
(※1)は半角の公式として使えると考えています。
半角の公式の候補はまだある
上の証明について,もしも(※2)の左辺,
つまり $\tan\theta$ から始めるとどうなるかを考えてみました。
先ほどの式変形を逆にたどる感じですね。
\begin{eqnarray*}
\tan\theta&=&\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}\\[0.8em]
&=&\dfrac{2\sin\theta\cos\theta}{2\cos^2\theta}\\[0.8em]
&=&\dfrac{2\sin\theta\cos\theta}{2\cdot\dfrac{1+\cos 2\theta}{2}} \\[0.6em]
&=&\dfrac{\sin 2\theta}{1+\cos 2\theta}
\end{eqnarray*}
途中,分子と分母に $2\cos\theta$ をかけるという変形が出てきます。
そこがやや思いつきにくい気がします。
$\sin$ と $\cos$ の均衡を崩している式変形に注目
この式変形ですが,第2辺の「$\,\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}\,$」の時点では
$\sin$ と $\cos$ が同数の式だったところを,
途中から $\cos$ が多く出てくる式に変形して進めていますね。
三角関数の世界において,
$\sin$ と $\cos$ は対称性が強い印象があります。
例えば,$\sin$ と $\cos$ が同数ずつ出てくる公式は,
以下のように,たくさんあります。
- $\tan\theta=\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}$
- $\sin^2\theta+\cos^2\theta=1$
- $\sin\left(\dfrac{\pi}{2}-\theta\right)=\cos\theta$,$\cos\left(\theta+\dfrac{\pi}{2}\right)=-\sin\theta$ など
- 三角関数の加法定理(「$\sin(\alpha+\beta)=~$」など)の右辺
他にも,$\sin\theta+\cos\theta=\style{font-size: 110%}{\text{(定数)}}$ の両辺を2乗すると
$\sin\theta\cos\theta$ の値が求められるなどの例もあります。
このように,$\sin$ と $\cos$ は
対になって出てくる場面がやたら多いという印象は,
多くの人が持っているのではないかと思います。
一方で,上記の証明で行った式変形は,
$\sin$ と $\cos$ の個数が同じという均衡状態を,
$\cos$ を増やすことでわざわざ崩しながら
式変形を進めているわけです。
それなら,$\sin$ を増やすことで均衡を崩したらどうなるか,
気になりません?
うずうずしません?
筆者はちょっとだけうずうずしたので,試してみました。
\begin{eqnarray*}
\tan\theta&=&\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}\\[0.8em]
&=&\dfrac{2\sin^2\theta}{2\sin\theta\cos\theta}\\[0.8em]
&=&\dfrac{2\cdot\dfrac{1-\cos 2\theta}{2}}{2\sin\theta\cos\theta}\\[0.6em]
&=&\style{background-color: #eebbff; padding: 0.3em;}{\dfrac{1-\cos 2\theta}{\sin 2\theta}}
\end{eqnarray*}
…また,別の形の式 が出てきましたね。
$\theta$ を $\dfrac{\theta}{2}$ に置きかえると
$\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1-\cos\theta}{\sin\theta}$
となるわけですが,これもまた,
$\tan$ の半角の公式として使っても問題ないのでしょうか?
並べて見比べてみる
ここで導いた等式に番号を付けつつ,
前に導いた等式と見比べてみましょう。
$\tan\theta=\dfrac{\sin 2\theta}{1+\cos 2\theta}$ ……(※2)
$\tan\theta=\dfrac{1-\cos 2\theta}{\sin 2\theta}$ ……(※4)
これらの式の $\theta$ を $\dfrac{\theta}{2}$ に置きかえて,
半角の公式として使えそうな形にすると,
次のようになります。
$\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ ……(※1)
$\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1-\cos\theta}{\sin\theta}$ ……(※3)
右辺どうしが等しいことの確認
実際,$\sin^2 \theta+\cos^2 \theta=1$ を次のように変形すると,
(※1)と(※3)の右辺,(※2)と(※4)の右辺が
それぞれ等しいことが確認できます。
$\sin^2 \theta+\cos^2 \theta=1$
$\sin^2 \theta=1-\cos^2 \theta$
$\sin^2 \theta=(1+\cos\theta)(1-\cos\theta)$
両辺を $\sin\theta(1+\cos\theta)$ で割ると,
$\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}=\dfrac{1-\cos\theta}{\sin\theta}$
そしてもちろん,この等式の $\theta$ を $2\theta$ に置きかえると,
(※2)と(※4)の右辺が等しいことも分かるわけです。
これまでの議論には,危うい点がある
それでは,(※1)や(※3)は,
どちらも半角の公式として使えると考えてよいでしょうか。
筆者の結論を書きますと,
「(※1)は使えるが(※3)は若干危うい」
と考えています。
どこが危ういか,お分かりになるでしょうか。
この問いかけは,非常に難しいと思います。
もしも,高校生がこの記事を読んでいて,
この問いかけに的確に答えられるなら,その人はぜひ,
将来数学教育を志してほしいと思うくらいです。
なので,これについては考えていただくことを想定せず,
さっさと答えを書いてしまいます。
公式の左辺と右辺で,定義域が異なるのはまずい
(※3)を公式と考えた場合,どこがまずいかというと,
左辺の定義域と右辺の定義域が一致しないことです。
$\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1-\cos\theta}{\sin\theta}$ ……(※3)
数値を求めるタイプの公式の多くは,
値を求めたい式を左辺に,その手段を右辺に書きます。
(※3)も,それに当てはまります。
では,数学の公式で,
左辺の定義域と右辺の定義域が一致しない場合,
何がまずいのでしょうか。
「左辺の定義域と右辺の定義域が一致しない」とは,
次の2つのうち,少なくとも一方に該当するということです。
(ここでは,公式に含まれる変数を $\theta$ としています。)
- 左辺の値が定義できるにもかかわらず,
右辺の値が定義できないような変数 $\theta$ の値が存在する。 - 左辺の値が定義できないにもかかわらず,
右辺の値が定義できるような変数 $\theta$ の値が存在する。
(A) と (B) のそれぞれについて,
どのようにまずいのかを検討しましょう。
(A) の場合
ここからしばらく,変数 $\theta$ に代入したい具体的な値を
$\alpha$ で表すことにします。
そして,変数 $\theta$ の値が $\alpha$ であるとき,
左辺の値が定義できる(存在する)にもかかわらず,
右辺の値は定義できない(存在しない)とします。
(※3)を公式として使うケースを考えてみましょう。
公式を使う人は,$\tan\dfrac{\alpha}{2}$ の値を求めたいと考え,
(※3)の右辺に $\theta=\alpha$ を代入します。
$\tan\dfrac{\alpha}{2}=\dfrac{1-\cos\alpha}{\sin\alpha}$
しかし,右辺では,(分母が $0$ になるなどの理由で)
値が定義できないことがわかったとします。
このとき,公式を使う人は,$\tan\dfrac{\alpha}{2}$ は
値が定義できないと判断してしまうでしょう。
本当は定義できるにもかかわらずです。
これは,公式として大きな欠点と言うべきでしょう。
(※1)や(※3)には,それが実現してしまうような
$\theta$ の値は存在するでしょうか。
特に難しくないと思いますので,興味のある方は,
ぜひ考えてみてください。
(B) の場合
変数 $\theta$ の値が $\alpha$ であるとき,
左辺の値が定義できない(存在しない)にもかかわらず,
右辺の値は定義する(存在できる)とします。
(※3)を公式として使うケースを考えてみましょう。
公式を使う人は,$\tan\dfrac{\alpha}{2}$ の値を求めたいと考え,
(※3)の右辺に $\theta=\alpha$ を代入します。
$\tan\dfrac{\alpha}{2}=\dfrac{1-\cos\alpha}{\sin\alpha}$
そして,右辺を計算して値を算出できたり,
あるいは計算できないまでも,
右辺の値が存在することが確認できたりするわけです。
これは,明確に危険なことです。
$\tan\dfrac{\alpha}{2}$ は,本当は値が定義できないのです。
にもかかわらず,公式を使った人は,
値が定義できると判断してしまうわけですから。
(※1)と(※3)には,それが実現してしまうような
$\theta$ の値は存在するでしょうか。
こちらについてもぜひ,考えてみてください。
導いた公式(の候補)の安全性
改めて,(※1)と(※3)は次の通りです。
$\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ ……(※1)
$\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1-\cos\theta}{\sin\theta}$ ……(※3)
それでは,(※1)と(※3)の両辺の定義域について
検証していきます。
(※1)と(※3) の左辺
$\tan\theta=\dfrac{\sin\theta}{\cos\theta}$ の値が定義できないのは,
分母の $\cos\theta$ が $0$ になってしまう場合です。
したがって,
$\theta=n\pi+\dfrac{\pi}{2}$ ($n$ は整数)
と表せるとき,$\tan\theta$ の値は定義できません。
そして,それ以外の場合は,$\tan\theta$ の値は定義できます。
(※1)と(※3)の左辺は,いずれも $\tan\dfrac{\theta}{2}$ です。
その値が定義できないのは,
$\dfrac{\theta}{2}=n\pi+\dfrac{\pi}{2}$ ($n$ は整数)
と表せるとき,つまり,
$\theta=(2n+1)\pi$ ($n$ は整数)
と表せるときであり,それ以外では定義できることになります。
$\theta$ が $\pi$ の奇数倍でなければよい,ということですね。
(※1)の右辺
$\sin\theta$ や $\cos\theta$ は,$\theta$ がどんな実数であっても定義できます。
ですから,(※1)の右辺 $\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ の値は,
$1+\cos\theta=0$,つまり $\cos\theta=-1$ でない限り,
定義できることになります。
$\cos\theta=-1$ となるのは
$\theta=(2n+1)\pi$ ($n$ は整数)
と表せるときであり,それ以外の値の全体が
(※1)の右辺の定義域になるので,
(※1)は両辺の定義域が一致すると言えます。
(※3)の右辺
(くり返しになりますが,)$\sin\theta$ や $\cos\theta$ は, $\theta$ がどんな実数であっても定義できます。ですから,(※3)の右辺 $\dfrac{1-\cos\theta}{\sin\theta}$ の値は,
$\sin\theta=0$ でない限り,定義できることになります。
$\sin\theta=0$ となるのは
$\theta=n\pi$ ($n$ は整数)
と表せるときです。
(※3)の右辺の値が定義できるためには,
$\theta$ が $\pi$ の整数倍であってはいけないわけですね。
これは,(※3)の左辺と異なっています。
(※3)の左辺の $\tan\dfrac{\theta}{2}$ は,
$\theta$ が $\pi$ の奇数倍であるときは定義できませんが,
$\theta$ が $\pi$ の偶数倍であるときは定義できます。
しかし,(※3)の右辺の値は,
$\theta$ が $\pi$ の偶数倍であるときも定義できないのです。
つまり,上記の
- 左辺の値が定義できるにもかかわらず,
右辺の値が定義できないような変数 $\theta$ の値が存在する。
に該当してしまうわけです。
ですから,(※3)を公式として使いたければ,
次のように場合分けする必要があります。
\[\tan\dfrac{\theta}{2}=
\left\{
\begin{eqnarray*}
&&\ \ 0&\text{(}\theta=2n\pi n\ \text{は整数)}\\
&&\dfrac{1-\cos\theta}{\sin\theta}\vphantom{\Large\dfrac{1}{1}} &\text{(それ以外)}
\end{eqnarray*}
\right.
\]
これはちょっと使いにくいんじゃないですかね。
ということで,筆者は,
公式として使うなら(※1)の方が良いと考えています。
そして,筆者の考えに誤りがなければ,
(※1)は公式として利用しても問題ないと思います。
次ページの内容
(※1)は公式として使えますが,
(※3)は使うなら場合分けが必要という結論になりました。
しかし,(※3)もしっかり証明したはずです。
一体どこに問題があったのでしょうか。
そして,(※3)の証明に問題があったのだとすれば,
(※1)の証明は大丈夫だったのでしょうか。
そのあたりについて,次ページで考えていきます。