【課題学習のテーマ】半角の公式 $\left(\tan\frac{\theta}{2}\right)$ の別の形を見つける

前ページまでのあらすじ

この記事では,$\tan$ の半角の公式について検討しています。

教科書や参考書にっている公式は次の通りです。

(教科書に載るタイプの)半角の公式 $\left(\,\tan\rbfrac(\theta)(2)\,\right)$

$\tan^2\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1-\cos\theta}{1+\cos\theta}$ …… ③ℹ️️

しかし,次の図を使って検討した結果,
$\theta$ が鋭角の場合に限りますが,
$\tan^2\dfrac{\theta}{2}$ ではなく $\tan\dfrac{\theta}{2}$
$\sin\theta$,$\cos\theta$ の式で表すことができました。

図 5-1

その等式は,次の通りです。

  $\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ ……(※1)⚠️

また,式変形による検討の結果,任意の $\theta$ について,
次の等式が成り立つことが分かりました。

  $\tan\dfrac{\theta}{2}=\pm\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ ……(※2)

残った疑問は,次の2つです。

  • $\theta$ が鈍角であるとき,図による分析は可能なのか。
  • (※2)の右辺の「$\pm$」は,$\theta$ がどのような値のときに
    「$+$」になり,あるいは「$-$」になるのか。

このページでは,これらの疑問について考えていきます。

ヒント3(最終) 図形的なアプローチ(任意の鈍角)

ヒントとしてはここが最終段階になります。

まだ答えそのものではないので「ヒント」と称していますが,
極めて答えに近い内容です。

図による考察($\theta$ が鈍角のとき)

$\theta$ が鈍角である場合,つまり $\dfrac{\pi}{2}<\theta<\pi$ である場合でも,
$\theta$ が鋭角のときの図 5-1と同様の図をいて,
似たような考察を行うことは可能でしょうか。

内角の二等分線ではなく,外角の二等分線を使う

直角三角形において,直角以外の2つの内角は鋭角になります。

だから,$\theta$ が鋭角のときは,直角三角形の内角の大きさを $\theta$ とし,次の定理を利用できたわけです。

定理 三角形の内角の二等分線と線分の比

$\rm\triangle ABC$ の $\rm\angle\,A$ の二等分線と辺 $\rm BC$ の交点を$\rm D$ とするとき,

  $\rm AB:AC=BD:DC$

今回は,$\theta$ が鈍角の場合を考えたいので,同じ手法は使えません。

しかし,「直角三角形の直角以外の内角は鋭角」を
逆手に取ってみましょう。
内角が鋭角なら,外角は必ず鈍角になりますよね。

しかも,都合のいいことに,
上記の定理は,外角の二等分線に関するものもあります。

定理 三角形の外角の二等分線と線分の比

$\rm\triangle ABC$ の $\rm\angle\,A$ の外角の二等分線と辺 $\rm BC$ の延長線の交点を $\rm D$ とするとき,

  $\rm AB:AC=BD:DC$

教科書にもっているはずです。
内角の二等分線に比べてややこしいパターンとして
印象に残っている人も多いでしょう。ℹ️️

この定理があるとなれば,試すべきことは1つです。

直角三角形の直角以外の内角(つまり鋭角)を1つ選び,
その外角の大きさを $\theta$ とおいて,
外角の二等分線をひいてみることにしましょう。

鈍角用に改変した図

$\theta$ が鋭角のときの考察に利用した図 5-1を手直しし,
次の図図 5-2を作りました。

図 5-1(対比のため再掲)

図 5-2

図を改変する時は,点の役割をなるべく変えない

このような図の改変では,
同じ名前を持つ点の役割をなるべく変えないこと
が重要なコツです。

ここでは,次のような対比になっています。

改変前($\theta$ は鋭角)
  • $\rm\triangle ABC$ を,$\rm AB=1,\ \angle\,C=\dfrac{\pi}{2}$ の直角三角形とする。
  • $\rm\triangle ABC$ で,$\rm\angle\,A$(内角)の大きさを $\theta$ とする。
  • $\rm\triangle ABC$ で,$\rm\angle\,A$(内角)の二等分線と
    辺 $\rm BC$ の交点を $\rm D$ とする。
改変後($\theta$ は鈍角)
  • $\rm\triangle ABC$ を,$\rm AB=1,\ \angle\,C=\dfrac{\pi}{2}$ の直角三角形とする。
  • $\rm\triangle ABC$ で,$\rm\angle\,A$ の外角の大きさを $\theta$ とする。
  • $\rm\triangle ABC$ で,$\rm\angle\,A$ の外角の二等分線と
    辺 $\rm BC$ の延長線の交点を $\rm D$ とする。

その効果は,すぐに明らかになります。

$\rm AB$,$\rm BC$ の長さに注意

$\rm AC$,$\rm BC$ の長さに注意しましょう。

  $\rm AC=AB\cos\angle\,BAC=1\cdot\cos(180^\circ-\theta)=-\cos\theta$
  $\rm BC=AC\sin\angle\,BAC=1\cdot\sin(180^\circ-\theta)=\sin\theta$

$\rm AC$ の長さは $-\cos\theta$ となっていて,
負の符号が付いているのが不自然に見えますが,
負の数になる心配はありません。

$\dfrac{\pi}{2}<\theta<\pi$ なので $\cos\theta<0$ であり,
$-\cos\theta$ はきちんと正の数になります。

$\rm BC$ の長さは,結果的には $\theta$ が鋭角のときと同じですが,
求め方は異なることに注意してください。

$\theta$ が鈍角の場合の考察

ではさっそく,$\theta$ が鈍角の場合について考えてみましょう。

$\rm AD$ が $\rm \angle\,BAC$ の外角の二等分線であることから,

 $\rm AB:AC=BD:DC$

$\rm AB=1$,$\rm AC=\textcolor{#d00}{-}\cos\theta$ より,

 $\rm 1:\textcolor{#d00}{(-}\cos\theta\textcolor{#d00}{)}=BD:DC$ …… (1)

$\rm BD$ と $\rm DC$ の長さを $\theta$ で表すと,

 ${\rm DC}={\rm AC}\tan{\rm \angle\,DAC}=\textcolor{#d00}{-}\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$

 ${\rm BD}={\rm BC}\textcolor{#d00}{+}{\rm DC}=\sin\theta-\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$

これらを (1) に代入すると,

$1:\textcolor{#d00}{(-}\cos\theta\textcolor{#d00}{)}=\left(\sin\theta-\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}\right):\textcolor{#d00}{\left(-\vphantom{\dfrac{\theta}{2}}\right.}\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}\textcolor{#d00}{\left.\vphantom{\dfrac{\theta}{2}}\right)}$

$\textcolor{#d00}{-}\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$$\vphantom{1}=\textcolor{#d00}{-}\cos\theta\left(\sin\theta-\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}\right)$ …… (2)

$\textcolor{#d00}{\dfrac{\pi}{2}}<\theta<\textcolor{#d00}{\pi}$ より,$\cos\theta\;$$\neqq$$\,0$

よって,(2) の両辺を $\textcolor{#d00}{-}\cos\theta$ でわることができて,

 $\tan\dfrac{\theta}{2}=\sin\theta-\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$

 $\tan\dfrac{\theta}{2}+\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}=\sin\theta$

 $(1+\cos\theta)\tan\dfrac{\theta}{2}=\sin\theta$ …… (3)

$\textcolor{#d00}{\dfrac{\pi}{2}}<\theta<\textcolor{#d00}{\pi}$ より,$1+\cos\theta>0$

よって,(3) の両辺を $1+\cos\theta$ でわることができて,

 $\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ ……(※1)

$\theta$ が鋭角であるときの考え方と,よく似ていますね。
ちなみに,似ているのは考え方だけではありません。

酷似する証明

上に示した証明の文ですが,ところどころ,
不自然に赤文字が混ざっていますね。
これが何を意味しているか,お分かりになるでしょうか。

前ページで,$\theta$ が鋭角のときの証明を示しましたが,
その文章と異なる箇所が,上の赤文字なのです。
それ以外の部分(黒文字)は,一字たりとも違いません。ℹ️️

$\theta$ が鋭角のときの証明はこちら(比較のため再掲)

$\rm AD$ が $\rm \angle\,BAC$ の二等分線であることから,

 $\rm AB:AC=BD:DC$

$\rm AB=1$,$\rm AC=\cos\theta$ より,

 $\rm 1:\cos\theta=BD:DC$ …… (1)

$\rm BD$ と $\rm DC$ の長さを $\theta$ で表すと,

 ${\rm DC}={\rm AC}\tan{\rm \angle\,DAC}=\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$

 ${\rm BD}={\rm BC}-{\rm DC}=\sin\theta-\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$

これらを (1) に代入すると,

 $1:\cos\theta=\left(\sin\theta-\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}\right):\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$

$\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$$\vphantom{1}=\cos\theta\left(\sin\theta-\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}\right)$ …… (2)

$0<\theta<\dfrac{\pi}{2}$ より,$\cos\theta\;$$\neqq$$\,0$

よって,(2) の両辺を $\cos\theta$ でわることができて,

 $\tan\dfrac{\theta}{2}=\sin\theta-\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$

 $\tan\dfrac{\theta}{2}+\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}=\sin\theta$

 $(1+\cos\theta)\tan\dfrac{\theta}{2}=\sin\theta$ …… (3)

$0<\theta<\dfrac{\pi}{2}$ より,$1+\cos\theta>0$

よって,(3) の両辺を $1+\cos\theta$ でわることができて,

 $\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$

異なっている部分は,割合にすると,
全体のわずか数%というところでしょう。

たったこれだけの改変で,
見た目はかなり異なる図についての証明として
成立してしまうのです。ℹ️️

この現象は,数学の図形分野において,よく見られます。

興味のある人は,教科書等にっている定理の証明や
証明問題の中から探してみるとよいでしょう。

これは,中学生・高校生の
自由研究(課題研究)のテーマとしても
適していると思います。

式による考察($\theta$ が鈍角のとき)

話をもどします。

図による論証をまとめると,$\theta$ が鋭角でも鈍角でも,

$\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ ……(※1)

が成り立つことが分かりました。

……本当ですかね?

前ページでは,教科書に載るタイプの
$\tan$ の半角の公式(③)をもとに式変形してみると,

$\tan\dfrac{\theta}{2}=\textcolor{#ff0000}{\pm}\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ ……(※2)

であることが分かったのでした。

そして,この「$\pm$」について,どんな $\theta$ のときに「$+$」になり,
あるいは「$-$」になるのかが疑問として残ったのでした。

しかし,$\theta$ が鋭角でも鈍角でも,「$+$」だというのです。
それなら,一体どのような場合に,「$-$」が出てくるのでしょうか。

実を言うと,筆者は,(※2)の等式に気づいた時点では,
$\theta$ が鈍角のときに「$-$」が出てくると予想していたのです。
しかしその予想は外れ,鈍角でも「$+$」でした。ℹ️️

強いて言うなら,$\theta$ は一般角なので, $\pi$($180^\circ$)より大きい角や,
$0$($0^\circ$)より小さい角(負の角)なんてものも,
考えに入れる必要があります。ℹ️️

その広い範囲のどこかで,「$-$」が出てくるのでしょうか。

常に「+」である可能性

筆者は,ここまで考えてようやく,(※2)の解釈に,
次の3つの可能性があることに気がつきました。

  1. $\theta$ の値によって,「$+$」になったり「$-$」になったりする。
  2. 実は常に「$+$」である。
  3. 実は常に「$-$」である。

筆者は,(A) の可能性しか想定していなかったわけです。

でも,よく考えてみると,(※2)はもともと,
次の等式から導いたものでした。

$\tan^2\dfrac{\theta}{2}=\left(\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}\right)^2$ ……(*)

これを,「$\pm$」を使って(※2)の形に書き直したのが,
あまりよくなかったかもしれません。
(※2) の形だと,$\theta$ の値によって,
「$+$」になったり「$-$」になったりするものだと思いがちです。

しかし,仮に (B) や (C) が真実であるとしても,
(*)は問題なく成立しますからね。
完全に盲点もうてんになっていました。ℹ️️ 

(※1)の証明に挑戦

$\theta$ の値によらず,(※2)の「$+$」,
つまり(※1)が成立するかもしれない。

ならばいっそのこと,(※1)が常に成り立つことの証明に
挑戦してみましょうか。

実は成り立たないのだとしても,
「$+$」になる場合と「$-$」になる場合を見分けるのに,
役に立つかもしれません。

証明の方針がまだ思い浮かんでいない人は,
ぜひ,次ページを見る前に挑戦してみてください。
練習問題として,それほど難しくないレベルです。

証明しやすくするために

(※1)を証明しようとすると,$\dfrac{\theta}{2}$ が多数出てきて,
煩雑はんざつなことになりそうです。

なので,次の等式を証明した上で,
$\theta$ を $\dfrac{\theta}{2}$ に置きかえて(※1)を得るという方針で
考えるとよいでしょう。

$\tan\theta=\dfrac{\sin 2\theta}{1+\cos 2\theta}$

次ページの内容

はたして,半角の公式として,
(※1)を採用してもよいのかどうか。

次ページで,いよいよその問題を決着させます。

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