【課題学習のテーマ】半角の公式 $\left(\tan\frac{\theta}{2}\right)$ の別の形を見つける

前ページまでのあらすじ

$\,\tan\;$の半角の公式について考えるための準備として,
$\,\tan 22.5^\circ$ の値を図形的に求める方法を紹介しました。

ここでは,前ページの図の $45^\circ$ を $\theta$ に,
$22.5^\circ$ を $\dfrac{\theta}{2}$ に置き換えて,
同じ考え方がどこまで通用するかを試してみます。

ヒント2 図形的なアプローチ(任意の鋭角)

ヒントと称していますが,
ここから急速に答えに近づいていきます。

なるべく自力で考えたいとお考えの方はご注意ください。

前ページの考察は,直角二等辺三角形だったからできたわけではない

前ページでは,次の図をもとに,$\tan 22.5^\circ$ の値を求めました。

図 4-1

その計算過程は,別に,$\rm BC=CD$ だったから
可能だったわけではないですね。

$\rm \triangle DBC$ の3辺の長さがすべて分かっている必要はありますが,
それらの値を比例式に代入して解いただけであり,
$\rm BC=CD$ であることを利用したわけではありません。

となると,$45^\circ$ と $22.5^\circ$ という角でなくても,
似たような考え方がかなりの程度通用するのではないか
期待できるわけです。

一般的な角 $\theta$ を使った図

ここからは,一般的な角について考えるので,
角の大きさは基本的に弧度法こどほうで表すことにします。

次の図は,前ページの直角二等辺三角形の図をきかえて,
大きさが $\theta$ の角を2等分するようにしたものです。⚠️

図 4-2

この図の特徴を整理しておきます。

  • $\rm \triangle ABC$ は,$\rm \angle\,C=\dfrac{\pi}{2}(=90^\circ)$ の直角三角形。
  • $\rm \angle\,BAC=\theta$ であり,$\rm AD$ は $\rm \angle\,BAC$ の
    二等分線になっている。

この図に現れる線分の長さは
この図の通りでなくても構わないのですが,
ここでは直角三角形 $\rm ABC$ の斜辺 $\rm AB$ の長さを $1$ としました。

このとき,$\rm AC=\cos\theta$,$\rm BC=\sin\theta$ となることは大丈夫ですね。

図から導ける公式(のようなもの)

$\rm AD$ が $\rm \angle\,BAC$ の二等分線であることから,

  $\rm AB:AC=BD:DC$

$\rm AB=1$,$\rm AC=\cos\theta$ より,

  $\rm 1:\cos\theta=BD:DC$ …… (1)

$\rm BD$ と $\rm DC$ の長さを $\theta$ で表すと,

  ${\rm DC}={\rm AC}\tan{\rm \angle\,DAC}=\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$

  ${\rm BD}={\rm BC}-{\rm DC}=\sin\theta-\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$

これらを (1) に代入すると,

  $1:\cos\theta=\left(\sin\theta-\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}\right):\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$

  $\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}=\cos\theta\left(\sin\theta-\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}\right)$ …… (2)

$0<\theta<\dfrac{\pi}{2}$ℹ️️ より,$\cos\theta\;$$\neqq$$\,0$

よって,(2)の両辺を $\cos\theta$ でわることができて,

  $\tan\dfrac{\theta}{2}=\sin\theta-\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}$

  $\tan\dfrac{\theta}{2}+\cos\theta\tan\dfrac{\theta}{2}=\sin\theta$

  $(1+\cos\theta)\tan\dfrac{\theta}{2}=\sin\theta$ …… (3)

$0<\theta<\dfrac{\pi}{2}$ より,$1+\cos\theta>0$ ℹ️️

よって,(3)の両辺を $1+\cos\theta$ でわることができて,

  $\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ ……(※1)

見事に,$\tan\dfrac{\theta}{2}$ を $\sin\theta$ と $\cos\theta$ で表す式が出てきました。

半角の公式として求められる要件は,

$\theta$ についての三角関数の値から,
$\dfrac{\theta}{2}$ についての三角関数の値が求められること

です。

(※1)は,その要件を満たしており,
半角の公式として使えそうな等式です。

そして何より,
教科書などに載る半角の公式(下記の③)とは違って,
$\tan\dfrac{\theta}{2}$ の値そのものを求められる式であることが強みです。

(教科書に載るタイプの)半角の公式 $\left(\,\tan\rbfrac(\theta)(2)\,\right)$

$\tan^2\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1-\cos\theta}{1+\cos\theta}$ …… ③

公式③は,できれば $\tan\dfrac{\theta}{2}$ の値が知りたいのに,
$\tan^2\dfrac{\theta}{2}$ の値しか求められないという意味で,
扱いにくいですから。

ここで導いた公式で十分と判断するのはまだ早い

では,教科書や参考書に載っている公式③は捨てて,
(※1)を公式として採用するということでよいでしょうか?

それはいけません。
少なくとも,まだだめです。

ここで導いた(※1)が,どんな角 $\theta$ でも成り立つかどうかを,まだ検討していないからです。

そもそも,この論証に使った図 4-2自体が,$\theta$ が鋭角えいかくの場合,
つまり $0<\theta<\dfrac{\pi}{2}$ の場合にしかけない図ですから。

そして実際,上の論証の中で,
「$0<\theta<\dfrac{\pi}{2}$ より,」という文言が2回出てきています。
要するに,この論証は $\theta$ が鋭角である場合に限って有効
だったわけです。

この等式(※1)は,$0<\theta<\dfrac{\pi}{2}$ の範囲では
成り立つことが分かったので,その範囲内にある $\theta$ に限れば,
公式として使っても問題ないと言えます。

しかし,$\theta$ がその範囲にない場合は,(※1)が成り立たず
別の等式が成り立つといった可能性も大いにあります。

$\theta$ が鈍角の場合について,同様の図による分析は可能?

「$\theta$ が鋭角なら成り立つ」と言われたら,
なら鈍角どんかくではどうなんだ」と思う人が多いでしょう。

そして,鈍角のケースも図で,
しかも鋭角のときと似たような図で分析できないかと
考えるのも,自然な思考だと思います。

しかし,内角の1つが鈍角である直角三角形 $\rm ABC$
などというものは存在しません。
よって,鈍角のケースを図で分析することは不可能…
なのでしょうか?

ここは,興味のある人には少し考えてもらいたいポイントなので,
答えは次のページに譲ることにします。

式変形によるアプローチ

2つの等式が出てきたが,どっちが正しい?

ひとまず,$0<\theta<\dfrac{\pi}{2}$ という狭い範囲ではありますが,
$\theta$ の値によらず成り立つ式(※1)が見つかりました。

しかし,$\tan\dfrac{\theta}{2}$ の値を求める式の表現が
1通りに決まらないことについては,
不自然さや不安を感じる人も多いでしょう。

教科書に載るタイプの半角の公式③と(※1)は,
一体どっちが正しいのかというわけです。

そもそも,(※1)の右辺を2乗したら,
③の右辺と一致するのでしょうか?

\begin{eqnarray*}
\left(\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}\right)^2&=&\dfrac{\sin^2\theta}{(1+\cos\theta)^2}\\
&=&\dfrac{1-\cos^2\theta}{(1+\cos\theta)^2}\vphantom{\Large\dfrac{1}{1}}\\
&=&\dfrac{(1+\cos\theta)(1-\cos\theta)}{(1+\cos\theta)^2}\vphantom{\Large\dfrac{1}{1}}\\
&=&\dfrac{1-\cos\theta}{1+\cos\theta}\vphantom{\Large\dfrac{1}{1}}
\end{eqnarray*}

なるほど,きっちり $\tan^2\dfrac{\theta}{2}$ の式と一致するんですね。

このように,三角関数では,一見すると全く異なる式が
実は恒等的に等しいということがよくあります。

従って,③と(※1)のどちらも正しいという可能性は十分あり,既に矛盾が生じているのではないかと怪しむ理由は
特にないと言えます。

この式変形を逆にたどると…

この式変形を逆にたどると,次のようになります。

\begin{eqnarray*}
\tan^2\dfrac{\theta}{2}&=&\dfrac{1-\cos\theta}{1+\cos\theta}\\
&=&\dfrac{(1-\cos\theta)(1+\cos\theta)}{(1+\cos\theta)^2}\vphantom{\Large\dfrac{1}{1}}\\
&=&\dfrac{1-\cos^2\theta}{(1+\cos\theta)^2}\vphantom{\Large\dfrac{1}{1}}\\ &=&\dfrac{\sin^2\theta}{(1+\cos\theta)^2}\vphantom{\Large\dfrac{1}{1}}\\
&=&\left(\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}\right)^2\vphantom{\Large\dfrac{1}{1}}
\end{eqnarray*}

$\tan$ の半角の公式③を見慣れている人でも,
その右辺の $\dfrac{1-\cos\theta}{1+\cos\theta}$ を変形すると,
ある式の2乗の形で表せることには,
気づいていないことが多いのではないかと思います。

何の脈絡みゃくらくもなく分子と分母に $(1+\cos\theta)$ をかけているところが,
少しトリッキーで気づきにくいですからね。
普通であれば,まず試すことのない式変形と言えるでしょう。

しかし,これは重要な情報です。
式変形の結果を改めて見てみましょう。

$\tan^2\dfrac{\theta}{2}=\left(\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}\right)^2$

すなわち,$\tan\dfrac{\theta}{2}$ と $\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ は,
それぞれの2乗がたがいに一致すると言うのです。

ただし,

よって, $\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ だ!
つまり,(※1)は常に成り立つんだ!

と判断するのははや合点がてんですよ。

正しくは次の通りです。

$\tan\dfrac{\theta}{2}=\textcolor{red}{\pm}\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$ ……(※2)

プラスマイナス($\pm$)が付くんですね。

プラスマイナス(±)の解釈

(※2)は,「$\pm$」が付いたとはいえ,
$\tan^2$ ではなく $\tan$ の値を直接求められる式になっています。
その意味では,$\tan$ の半角の公式(①)より
使いやすい式になっていると言えるのではないかと思います。

ただ,$\theta$ がどのような値のときに「$+$」になり,
あるいは「$-$」になるのかは,
可能ならばはっきりさせておきたいところです。

次ページの内容

このページでは,次の2点について疑問が残りました。

  • $\theta$ が鈍角であるとき,図による分析は可能なのか。
  • (※2)の右辺の「$\pm$」は,$\theta$ がどのような値のときに
    「$+$」になり,あるいは「$-$」になるのか。

次ページでは,これらの点について調べていきます。

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