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三角関数の半角の公式
高校数学Ⅱの【三角関数】で扱われる「半角の公式」は,
以下の3つがあります。
半角の公式 $\left(\,\sin\rbfrac(\theta)(2)\;,\;\cos\rbfrac(\theta)(2)\,\right)$
$\sin^2\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1-\cos\theta}{2}$ …… ①
$\cos^2\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1+\cos\theta}{2}$ …… ②
(教科書に載るタイプの)半角の公式 $\left(\,\tan\rbfrac(\theta)(2)\,\right)$
$\tan^2\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1-\cos\theta}{1+\cos\theta}$ …… ③
$\tan$ の半角の公式(③)は,
載せていない教科書もありますが,
載せるとしたら上記の形になるようです。ℹ️️①と②から簡単に導けるので,
自然なことではあります。
(筆者はこの形以外見たことない)
半角の公式に対する不満
半角の公式の存在意義は,
$\theta$ についての三角関数の値($\sin\theta$,$\cos\theta$,$\tan\theta$)から
$\dfrac{\theta}{2}$ についての三角関数の値 $\left(\sin\dfrac{\theta}{2},\ \cos\dfrac{\theta}{2},\ \tan\dfrac{\theta}{2}\right)$ を
求められるというものです。
ただ,その使い道を考えると,この公式の形は不便です。
三角関数の値そのものではなく,
その2乗の値を求める式になっているからです。
①を例にすると,本来求めたいのは,
$\sin^2\dfrac{\theta}{2}$ではなく,$\sin\dfrac{\theta}{2}$の値でしょう。
ならば,公式の方も,$\sin^2\dfrac{\theta}{2}=\;$~という形ではなく,
$\sin\dfrac{\theta}{2}=\;$~という形であってほしいはずです。
$\sin^2\dfrac{\theta}{2}$ の値が得られても,それが $0$ でない限り,
$\sin\dfrac{\theta}{2}$ の値は1つに決まりません。
$\sin\dfrac{\theta}{2}$ の値を求める手段として,
それはかなり不便な点だと思います。
他の公式との比較
他の公式では,そんなことにはなっていません。
例として,2倍角の公式を見てみましょう。
2倍角の公式
\begin{align*}
\sin 2\theta=2\sin\theta\cos\theta
\end{align*}
\begin{eqnarray*}
\cos 2\theta&=&\cos^2\theta-\sin^2\theta\\[0.4em]
&=&2\cos^2\theta-1\\[0.4em]
&=&1-2\sin^2\theta
\end{eqnarray*}
\begin{align*}
\tan 2\theta=\dfrac{2\tan\theta}{1-\tan^2\theta}
\end{align*}
これらは,$\theta$ についての三角関数の値($\sin\theta$,$\cos\theta$,$\tan\theta$)から,
その2倍の角 $2\theta$ についての三角関数の値
($\sin 2\theta$,$\cos 2\theta$,$\tan 2\theta$)を求める公式です。
どの公式も,$\sin^2 2\theta=$ ~のような
ややこしい形にはなっていませんね。
つまり,半角の公式は,不本意だけどしかたなく
2乗の値を求める形になっているのだと考えられます。
実は改良の余地がある?
しかし,よく調べてみると,①~③のうち1つだけですが,
2乗の値を求める形を避けられるものがあるようなのです。
それが本記事のテーマです。
この記事で追体験していただくこと
筆者はある時,三角関数の半角の公式を
図形的に導く方法を考えていたのですが,
そこで不思議なことが起きました。
$\sin\dfrac{\theta}{2}$ や $\cos\dfrac{\theta}{2}$ の公式(上記の①と②)については,
特に面白い結果が得られそうになかったので,
公式の導出を途中で打ち切ったのですが,
$\tan\dfrac{\theta}{2}$ の公式については,
上記の③とは別の形の等式が出てきたのです。
しかも,③よりもシンプルで,
公式として使いやすそうな形でです。
筆者は,結構困惑しました。
その等式は,果たして公式として使えるのか?
それとも,何らかの難点があって,
公式としては使用を控えた方がよいのか?
本記事では,この時の筆者の思考を
追体験していただきたいと考えています。ℹ️️その等式がどの程度知られているのかは分かりませんが,
上記の③以外の形を知らない方は
かなり驚かれるのではないかと思います。
主な前提知識
本記事を読むのに必要となる
主な前提知識は次の通りです。
高校 数学Ⅱ
- 三角関数 2倍角の公式($\sin 2\theta$,$\cos 2\theta$,$\tan 2\theta$)
- 三角関数 半角の公式 $\left(\sin\dfrac{\theta}{2},\ \cos\dfrac{\theta}{2},\ \tan\dfrac{\theta}{2}\right)$
高校 数学A
- 三角形の内角の二等分線と線分の比
- 三角形の外角の二等分線と線分の比
高校 数学Ⅰ
ちょっとだけネタばらし(得られた等式を公式として使えるか)
最終的に,③よりシンプルな等式が2つ得られるのですが,
片方は公式として問題なく使えそうだが,
もう片方は使いにくい
という結論になります。
本格的なネタばらし(得られる等式)
得られる等式は次の通りです。
半角の公式 $\left(\,\tan\rbfrac(\theta)(2)\,\right)$ の候補
$\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{\sin\theta}{1+\cos\theta}$
$\tan\dfrac{\theta}{2}=\dfrac{1-\cos\theta}{\sin\theta}$
前者は公式として使えそうですが,
後者は両辺の定義域が異なるため使いにくいという結論です。
話の展開が遠回りに感じられるかもしれませんが…
上記の問題について,
最短で結論を得るための記事を書くなら,
この記事はもっと簡潔な構成になったでしょう。
文章量も,おそらく半分以下まで
減らせたのではないかと思います。
しかし,学校の先生方が
課題学習の授業における話の流れを考案する際の
参考にしていただくのが
本記事分類の趣旨ですので,ℹ️️学習者にも読めるように,
記事自体は学習者向けのような
書き方をしていますけれども。
実際の思考過程に近い状態で示した方が
参考になるかと思い,
遠回りな思考過程をあえて残しています。ℹ️とは言え長すぎるので,
概要記事など用意した方が良いのだろうか…
と思ったり。
この点についてご了承いただければと思います。
次ページの内容
まずは,筆者が半角の公式を図形的に導こうと
思ったきっかけからお話ししていこうと思います。