【もやもや解決】三角形の合同条件は,一字一句正確に覚えないといけないか

三角形の合同条件を題材にしていますが,
平行四辺形の性質や,
三角形の相似条件などについても同様です。

完全暗記をめぐる論争

中2数学で,三角形の合同条件を学びますね。

教科書では,次のような文で紹介されているはずです。⚠️

三角形の合同条件

2つの三角形は,次のいずれかが成り立つとき,
合同である。

  • 3組の辺がそれぞれ等しい。
  • 2組の辺と,その間の角がそれぞれ等しい。
  • 1組の辺と,その両端の角がそれぞれ等しい。

教科書にある文言を正確に覚えるべきかどうかは, 先生の間でも意見が分かれる

さて,この三角形の合同条件ですが,教科書にある文言もんごんの通りに,
一字一句正確に覚えないといけないものなのでしょうか。

その点については,実は,先生の間で
意見が分かれているようなのです。

生徒に対して1字たりとも間違えずに覚えるよう指導し,
定期試験では正確に書かないと減点すると言う先生もいれば,
文言が完全に同じでなくても,
意味が同じであれば問題ないと言う先生もいるのです。

これでは学習者がまよってしまいますね。

そこで,この件について筆者の意見を
示しておきたいと思います。

指導者側と学習者側で考え方が異なる

指導者側は,同じ意味の表現なら認めるのがとう

まず指導者側の考え方としては,
少なくともテストの採点では,
教科書にっているのと同じ意味にしか読めない表現は,
OKとするのが適切
だと思います。

そのような表現は,当然,
数学的にも間違っていないはずですから。

中学生や高校生がテストで次のような表現を使った場合,
私が採点者なら,減点対象にすることはないでしょう。

  • 2組の辺の長さとその間にある角の大きさがそれぞれ等しい。ℹ️️
  • 2組の角とその間の辺がそれぞれ等しい。ℹ️️

学習者側は,一字一句正確に覚えるつもりでいた方が良い

しかし,だからといって,学習者が
「その場で考えた表現を使えばよい」と考えるのは
少々あやうい気がします。

教科書にある表現と同じ意味の表現を考えるのが,
それほど簡単かんたんではないと思われるからです。

よくある間違い

前述の通り,三角形の合同条件には,
「2組の辺とその間の角がそれぞれ等しい」
というものがあります。

これを,「2組の辺と1組の角がそれぞれ等しい」と
言いえてしまうちがいは,よくありそうな気がします。

なぜこの表現ではまずいのか,分かりますか。

次の図をごらんください。

教科書でもよく取り上げられる例です。

この図は,鋭角三角形 $\rm ABC$ の辺 $\rm BC$ 上に,
$\rm AD=AC$ となるような点 $\rm D$ をとったというものです。

このとき,$\rm\triangle ABC$ と $\rm\triangle ABD$ について,

$\rm AB=AB$(共通)
$\rm AC=AD$
$\rm\angle\,ABC=\angle\,ABD$(共通)

であるので,$\rm\triangle ABC$ と $\rm\triangle ABD$ は,
2組の辺と1組の角がそれぞれ等しいと言えます。

しかし,$\rm\triangle ABC$ と $\rm\triangle ABD$ は明らかに
合同ではないですね。

このように,教科書通りでない表現を自分で考えると,
不正確な表現になる危険性があります。

ケアレスミスの原因にもなる

そうでなくとも,覚えていればすぐに書けることを
自分の頭で考える場合,
余分に思考力を使ってしまいます。

それによって,問題の解き方を考えたり,
計算を間違えないように注意したりするのに
使いたい思考力がけずられて,
他のところでケアレスミスℹ️が起きることがあります。

そのため,学習者としては,
よく使う決まり文句は教科書通りに覚えてしまうのが得策とくさくだと
考えられるのです。

中3数学の「三角形の相似条件」を知っている人へ(やや難)

よくある間違い:三角形の相似条件の例

少しややこしくなってしまいますがℹ️️
ぜひ取り上げたい例があります。

三角形の合同条件と相似条件はよく似ている

中3数学で三角形の相似条件を学びますが,
三角形の合同条件と相似条件がよく似ていることは,
多くの人が感じているところでしょう。

合同条件と相似条件を,対比して並べてみます。

  • 「3組の辺がそれぞれ等しい」と
    「3組の辺の比がすべて等しい」
  • 「2組の辺とその間の角がそれぞれ等しい」と
    「2組の辺の比とその間の角がそれぞれ等しい」
  • 「1組の辺とその両端の角がそれぞれ等しい」と
    「2組の角がそれぞれ等しい」⚠️

今回注目してほしいのは,「3組の辺」です。

合同条件の方は「それぞれ」で,
相似条件の方は「すべて」となっていますね。

その理由は,結構難しいと思います。

もし,こうなっている理由が
はっきり分かる中学生がいるとしたら,
その人は言語感覚がかなり優れていると
言えるのではないでしょうか。

興味のある人は,その理由を考えてみてください。

「それぞれ」の意味

「それぞれ」という言葉は,なかなか難しいですよね。
ここで,イメージをはっきりさせておきましょう。

「それぞれ」は,2つ以上のものについて,
同じことを言いたいときに使われる言葉です。

例えば,次のような文章があるとします。

  • 母は,姉と私に1000円を渡した。

これだと,姉と私が2人で1000円を受け取ったのか,
姉が1000円,私も1000円受け取ったのか,
分かりにくい文章になっています。

これを,次のように言いえます。

  • 母は,姉と私にそれぞれ1000円を渡した。

これなら,姉が1000円,私も1000円
受け取ったことがはっきりします。

姉と私という2つのものについて,
1000円受け取ったという同じことを言うために,
「それぞれ」という言葉を使ったわけです。

「それぞれ等しい」と「すべて等しい」の違い

「それぞれ等しい」のイメージ

「それぞれ等しい」のイメージは,次の通りです。

 $\,a=b\,$$\,c=d\,$$\,e=f\,$

等しい値の組み合わせがいくつかあるわけですね。

これを文章で表すなら,
「$a$ と $b$,$c$ と $d$,$e$ と $f$ はそれぞれ等しい。」
のようになります。

「すべて等しい」のイメージ

これに対して,「すべて等しい」のイメージは次の通りです。

 $\,a=b=c=d\,$

げたものすべてが,どれも同じ値ということです。

これを文章で表すなら,
「$a\,,\ b\,,\ c\,,\ d$ はすべて等しい。」
のようになります。

3組の辺に関して,合同条件が「それぞれ」,相似条件が「すべて」となっている理由

では,合同条件と相似条件の話にもどります。

合同条件と相似条件の「3組の辺」について,
上で説明した「それぞれ」と「すべて」の
どちらに当てはまるかを見ていきましょう。

合同条件の「3組の辺」

2つの合同な三角形を $\rm\triangle ABC$ ,$\rm\triangle A'B'C'$ とし,
それぞれの辺の長さを,次の図のように
$a,\ b,\ c$ などで表します。ℹ️️

これらの三角形の辺の長さが
どのように等しいかと言いますと,

 $\,a=a\,'\,$$\,b=b\,'\,$$\,c=c\,'\,$

ですね。

これは確かに,
「$a$ と $a\,'$,$b$ と $b\,'$,$c$ と $c\,'$ がそれぞれ等しい」
という状況です。

従って,合同条件の「3組の辺」は,
「3組の辺がそれぞれ等しい。」
と表すのが適切です。

相似条件の「3組の辺」

2つの相似な三角形を $\rm\triangle ABC$ ,$\rm\triangle A'B'C'$ とし,
それぞれの辺の長さを,合同のときと同じように,
$a,\ b,\ c$ などで表します。

相似条件は「3組の辺の比が~」となっています。
まず,その「3組の辺の比」とは何かを考えます。

この中の「3組の辺」は,
辺そのものではなく辺の長さを表しています。

ですから,本当は
「3組の辺の長さの比が~」と言った方が
分かりやすいと思うのですが,
教科書では,表現の短縮を優先することが多いようです。

つまり,辺の長さの組み合わせが
3つあるということになりますが,
その3つの組み合わせとは,

 $a$ と $a\,'$$b$ と $b\,'$$c$ と $c\,'$

のことです。

そして,「3組の辺の比」とは,

 $a:a\,'$$b:b\,'$$c:c\,'$

のことです。

これらがどのように等しいかと言いますと,

 $\,a:a\,'=b:b\,'=c:c\,'\,$

ですね。

つまり,$a:a\,'$$b:b\,'$$c:c\,'$ という3つの比が
すべて等しいのです。

この状況を「それぞれ」で言い表すのは
不自然だと思います。

だから,相似条件の「3組の辺」は,
「それぞれ」ではなく,
「3組の辺の比がすべて等しい」と表すのが
適切であると言えるのです。

「3組の辺の比」で連比を思い浮かべた人へ

「3組の辺の比」と言われたとき,
$a:b:c$ や $a\,’:b\,’:c\,’$ などのれんを思い浮かべる人も
いると思います。

数学的には,相似条件を
$a:b:c=a\,’:b\,’:c\,’$ と表しても問題ありませんが,
この式は,「3組の辺の比」という言葉と
あまり合っていないように感じます。

また,「すべて等しい」と言い表すなら,
等しいものは3つ以上であるはずです。

その意味でも,
「3組の辺の比がすべて等しい」という文は,
2つの連比が等しい $a:b:c=a\,’:b\,’:c\,’$ ではなく,
3つの比が等しい $\,a:a\,’=b:b\,’=c:c\,’\,$ を
想定しているものと考えられます。

相似条件の正しい表現を自力で考えるのは相当難しい

この記事の本題は,
教科書に書かれた合同条件や相似条件などの文を
完全には覚えずに,自分でそのような表現を
作って使っても問題ないかということでした。

筆者は,基本的にそれは許されると思っていますが,
中学生や高校生にとっては難易度が高いため,
おすすめしにくいところです。

特に,ここで説明した相似条件の「3組の辺」について,
「それぞれ」だと意味が通らないから
「すべて」にしようとしゅんに判断できる人は,
中学生はおろか高校生でも少ない気がします。⚠️

といったこともあるので,学習者の考え方としては,
この種の決まり文句はしっかり覚えるつもりでいた方が
安心だと思います。

学習者は,そんなに神経質になることはない

もっとも,このようなことを気にしすぎて,
証明を書くのがこわくなるのも良くありません。

正直なところ,試験で中学生や高校生が
「3組の辺の比がそれぞれ等しいから」
と書いてきても,
筆者が採点者なら減点しないと思います。⚠️

厳しくしすぎて,
ほとんどの生徒が0点になってしまうようでは,
採点の意味がないですからね。ℹ️️

合同条件の例で出した
「2組の辺と1組の角が~」のように,
数学的に大事なことを
忘れていそうな表現であれば別ですが,
それでも,証明に不慣れな中学生の答案なら,
大減点まではしないと思います。⚠️

教育関係者,特に教材制作者なら
このような細かい文言も気にするのですが,
学習者としては,あまりこわがらずに
証明を書く練習をどんどんしてもらえればと
思います。

まとめ:よく使う決まり文句は覚えてしまった方が良い

結論としては,
三角形の合同条件や相似条件のような決まり文句は,
一字一句正確に覚えるつもりでいた方が良いと思います。

理由は次の通りです。

  • 状況を正しく言い表せる表現を考えるのが,
    中学生や高校生にとって簡単ではない。
  • 正しい表現を考えるのに気を取られていると,
    別のところでミスをしやすくなる。

その上で,試験中に正確に思い出せなくなったら
考えて書くという方針でよいのではないでしょうか。


最後まで読んでいただきありがとうございます。
参考になれば幸いです。

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