【暗記事項の評定】高校数学Ⅱ|三角関数|2倍角の公式($\tan 2\alpha$)

この記事では,三角関数の「2倍角の公式($\tan$)」を解剖し,
覚え方や思い出し方などについて考えていきます。

「2倍角の公式($\tan$)」の概要

2倍角の公式($\,\tan 2\alpha\,$)

 $\tan 2\alpha=\dfrac{2\tan\alpha}{1-\tan^2\alpha}$ …… ①

公式の意味・使い道

$\alpha$ の三角関数値である $\tan\alpha$ から,
$2\alpha$ の三角関数値である $\tan 2\alpha$ を
求めるための公式です。

学習事項としての評定

総合評価

ℹ️️
有用性

文系 ★★☆☆☆
理系 ★★☆☆☆

ℹ️️
学習への影響

文系 ★☆☆☆☆
理系 ★☆☆☆☆

ℹ️️
記憶補強の難しさ

☆☆☆☆

ℹ️️
丸暗記の必要性

文系 ☆☆☆☆
理系 ☆☆☆☆
「総合評価」の見かた

各項目,星0.5個きざみで,
★☆☆☆☆(星1個)から ★★★★★(星5個)までの
9段階です。

全体として,星の数が多いものほど,
覚える価値が高いということになります。

高校数学の学習事項については,
文系と理系に分けて評価しています。

理系は数学ⅢCまでの学習,
文系は数学Ⅲを除いた範囲の学習を想定しています。

  • 文系の学習範囲は数学Cを含むことに注意!

有用性 

主に,教科書・参考書の練習問題や,
高校入試や大学入試の数学で,
この記事の学習事項が利用されるひんを評価する項目です。

  • 他の公式や考え方で簡単に代用できるものは,
    丸暗記する必要性は低いと言えます。
    そのため,代用が難しいと考えられるものは,
    星の数を多くしています。

学習への影響 

この記事の学習事項を
スムーズに利用できるようにならないまま
数学の学習を続けた場合,
どの程度の悪影響が出るかを評価する項目です。

「有用性」との相違点

本項目「学習への影響」は,
前出の「有用性」と意味が重複しますが,
次のような違いがあります。

  • 「有用性」が高い学習事項が苦手なままだと,
    各単元で,解けない問題が多く発生する。
  • 「学習への影響」が高い学習事項が苦手なままだと,
    各単元で,理解できない基礎事項が増える。

理解できない基礎事項が増えれば,
解けない問題も多くなりますので,
「学習への影響」が高いのに
「有用性」が低いというケースは
あまり出てこないと思います。

逆に,応用問題でやたらと好まれるけれども,
他単元の理論の前提知識にならず,
他の定理や公式を導くのに
使われることもないような学習事項は,
「有用性」は高いけれども
「学習への影響」は低いということになります。

本項目「学習への影響」は,

  • 教科書にっていることを
    すぐに全部理解するのは難しそうだと感じる。
  • 学校の授業から大きく遅れた生徒が
    学校の授業に追いつくために
    既習事項を復習したい。

といった場面で,
理解しにくければ一時的に省略してもよい学習事項と,
理解しにくくてもねばるべき学習事項を見分けるのに
利用できると思います。

  • 星4個以上の学習事項は,
    理解度が低いまま突き進むと,
    数学の学習が続けられなくなるおそれがある
    (と筆者が判断している)と考えてください。
  • 星2個以下の学習事項は,
    今後学ぶ数学を理解するのに不可欠ではないと
    筆者が判断しているものです。
    その事項の習得に苦戦するようなら,
    ひとまず苦手なままで放置して他の学習を優先し,
    入試などの重要なタイミングまでに克服こくふくするといった方針を
    採用しやすい学習事項になります。⚠️

記憶補強の難しさ 

ある知識について記憶が薄れた場合に,
他の知識を利用して薄れた記憶を補強できるなら,
完全な記憶を維持しつづける必要はありません。
それが難しいと思われる学習事項に,星を多くつけています。

  • 星2個以下の学習事項は,
    比較的簡単に記憶を補強できるものです。
    その方法をしっかり覚えましょう。
    そして,公式自体の記憶が薄れた場合でも,
    すぐに教科書で確認するようなことはせず,
    他の公式などから記憶を再構築するようにしてください。⚠️
  • 試験の時間中に公式を忘れた場合,
    教科書で確認するのは反則ですが,
    自力で導きなおすのは完全に正当です。
    多くの公式についてそれが素早くできるようになると,
    試験でも有利であると言えます。
  • この評価項目は,文系と理系で共通です。

丸暗記の必要性 

この学習事項を丸暗記する必要があるかどうかの総合評価です。

おことわり 

この評価は,あくまで筆者個人の感覚によるものです。

感覚は人それぞれなので,
読者が違和感を覚える評価があるかもしれません。

その場合は,記事本文をよく読んで判断してください。

それでも違和感が解消されない場合は,
学校や塾の先生など,よく知っている人に
意見を求めてみてください。

分析詳細

有用性 評価2

高校数学の範囲内では,
すごくよく使われる公式という印象はありません。

$\sin 2\alpha$ や $\cos 2\alpha$ の2倍角の公式は,
様々な問題を解く時に出てきますが,
$\tan 2\alpha$ の2倍角の公式は,
その公式自体が主役になる問題でもない限り,
あまり見かけない気がします。

学習への影響度 評価1.5

高校数学の範囲で,この公式を使って説明される部分は
特に思いつきません。

この公式が苦手でも,今後の数学の学習に
大きな悪影響を及ぼす心配はないと思われます。

数学の学習にじっくり時間をかけられない状況なら,
この公式の習得・習熟を
一時的に後回しにしても大丈夫だと思います。⚠️

記憶補強の難しさ 評価1.5

この公式は,他の公式から簡単に導けます。
導き方は2通り考えられます。

$\boldsymbol{\sin,\;\cos}$ の2倍角の公式から導く方法

1つ目は,$\sin,\ \cos$ の2倍角の公式を使う方法です。

2倍角の公式 $(\,\sin 2\alpha,\;\cos 2\alpha\,)$

\begin{eqnarray*}
\sin 2\alpha=2\sin\alpha\cos\alpha\ \cdots\ \text{②}
\end{eqnarray*}

\begin{eqnarray*}
\cos 2\alpha&=&\cos^2\alpha-\sin^2\alpha&\ &\cdots\ \text{③}\\[0.4em]
&=&2\cos^2\alpha-1&\ &\cdots\ \text{④}\\[0.4em]
&=&1-2\sin^2\alpha&\ &\cdots\ \text{⑤}
\end{eqnarray*}

ここでのポイントは,$\cos 2\alpha$ について,
$\sin \alpha$ と $\cos \alpha$ が両方出てくる③を使うことです。

等式②,③より,

\begin{eqnarray*}
\tan 2\alpha&=&\dfrac{\sin 2\alpha}{\cos 2\alpha}\\[0.6em]
&=&\dfrac{2\sin\alpha\cos\alpha}{\cos^2\alpha-\sin^2\alpha}
\end{eqnarray*}

ここで,分子と分母を $\cos^2\alpha$ で割ると,

\begin{eqnarray*}
\tan 2\alpha&=&\dfrac{2\cdot\cfrac{\sin\alpha}{\cos\alpha}}{1-\cfrac{\sin^2\alpha}{\cos^2\alpha}}\\[0.4em]
&=&\dfrac{2\tan\alpha}{1-\tan^2\alpha}
\end{eqnarray*}

慣れれば,頭の中だけでこの式変形を行い,
公式を素早く思い出すこともできるようになると思います。

細かいことを言うと…

細かいことを言うと,この式変形は,
$0$ に等しい可能性がある $\cos^2\alpha$ で割るものなので,
公式の証明をするのであれば,
もっと慎重に考えるべきでしょう。

ただ,ここでの目的は
公式の思い出し方を考えることなので,
厳密性にこだわる必要はありません。

なお,高校の教科書でも,同様の式変形で,
このあたりの厳密性にはあまりこだわらないようです。

$\tan$ の加法定理の導き方とほぼ同じ

この式変形は,$\tan$ の加法定理を $\sin,\ \cos$ の加法定理から
導くときの式変形と同じ考え方
です。ℹ️️

似たような式変形で複数の公式を思い出せるのですから,
トクな方法だと思うのですがいかがでしょうか。

$\boldsymbol\tan$ の加法定理から導く方法

$\tan$ の加法定理を覚えている人なら,
もっと簡単に導くことができます。

三角関数の加法定理($\rbboldsymbol(\,\tan\,)$)

 $\tan(\alpha+\beta)=\dfrac{\tan\alpha+\tan\beta}{1-\tan\alpha\tan\beta}$ …… ⑥
 $\tan(\alpha-\beta)=\dfrac{\tan\alpha-\tan\beta}{1+\tan\alpha\tan\beta}$ …… ⑦

⑥を完全に覚えていれば,$\beta$ に $\alpha$ を代入するだけで
欲しい公式(①)が出てきますから。

しかし,⑥を暗記して①を導くという方針は,
あまりおすすめではありません。

$\tan$ の加法定理も,
この記事で扱っている $\tan$ の2倍角の公式と同様,
さほど使用頻度が高くなく,
丸暗記する必要性を感じない公式だからです。

それよりは,覚える必要性の高い
$\sin,\ \cos$ の2倍角の公式から導く方法の方が,
理にかなっているのではないかと思います。

次のように,順次公式を導くことで
$\tan$ の2倍角の公式にたどり着くという方法も
なかなか良いと思います。

$\sin,\ \cos$ の加法定理
→ $\tan$ の加法定理(⑥)
→ $\tan$ の2倍角の公式(①)

こちらの式変形も,慣れればさほど時間はかかりませんし,
1つの手順で $\tan$ の加法定理と
$\tan$ の2倍角の公式の両方を思い出せる点が
魅力です。

丸暗記の必要性(総合評価) 評価1.5

2倍角の公式($\tan$)は,
それほど複雑な公式ではないので,
覚えられる人は覚えてもよいと思います。

しかし,記憶が薄れてきた時の取り戻し方は
しっかり確保しておきたいところです。

そもそも,この公式は,
問題を解くにしても,教科書を読み進めるにしても,
使用頻度はあまり高くありません。

それも含めて判断すると,
必要になった時に導いて使えれば十分な公式だと思います。

まとめ:『2倍角の公式($\boldsymbol{\tan}$)』の特徴

高校数学Ⅱで学ぶ【三角関数】の
「2倍角の公式($\tan$)」については,
次のようなイメージを持っておくとよいでしょう。

2倍角の公式($\;\tan\;$)のイメージ

  • 使用頻度はあまり高くない。
    必要になった時に導いて使えれば十分。
  • $\sin,\ \cos$ の2倍角の公式から導ける。
  • $\sin,\ \cos$ の加法定理から
    $\tan$ の加法定理が導けるので,
    そこから $\tan$ の2倍角の公式を導く方法も有力。
「このような公式があった」という記憶は必要

「このような公式があった」という記憶は必要です。

その記憶すらないと,「あの公式を使おう」と
思いつくこともできないですから。

その意味では,一度は丸暗記を試みるのも
よいと思います。

ただ,この公式は
導き直して使うことも難しくないため,
暗記した等式の記憶を完全な形で
保持し続ける必要はないということです。


最後まで読んでいただきありがとうございます。
参考になれば幸いです。

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