【自由研究のテーマ】正しいように見えるが正しくない方程式の変形

どこがダメなのか分かりにくい方程式の変形

よくあるクイズ

次のようなクイズを見たことがあるでしょうか。

方程式 $x-2=0$ …… ① を解く。

両辺に $x-1$ をかける。

 $(x-2)(x-1)=0$ …… ②

両辺を $x-2$ でわる。

 $x-1=0$ …… ③

両辺に $1$ を足す。

 $x=1$ …… ④

以上より,方程式 $x-2=0$ の解は,$x=1$

この解き方はどこがちがっているのでしょうか
というクイズです。

「普通の解き方と違うから」は答えにならない

方程式①を普通に解くなら,
両辺に $2$ を加えて $x=2$ ,となりますね。ℹ️️

この解き方を知っていると,
他の解き方を受け入れにくいと感じるのも
理解できることではあります。

しかし,それはこの問題に対する答えにはなりません。

数学は自由です。
基本的に,数学は正しければ何でもありです。

1つの解き方が正しいからといって,
他の解き方が正しくないと考える理由は全くありません。

考えるポイント

上のクイズについてはひとまずわきに置いて,
なぜ,これまで学んできた方程式の解き方で
方程式が解けるのかについて考えてみます。

方程式の変形の中で出てくる等式も方程式

次に示すのは,おなじみの1次方程式の解き方です。

次の方程式を解く。

 $3x+6=-12$ …… ⑤

両辺から $6$ を引いて,

 $3x=-18$ …… ⑥

両辺を $3$ でわって,

 $x=-6$ …… ⑦

よって,解は $x=-6$

もともと解きたい方程式は⑤ですが,
それを⑥に,次いで⑦に変形しています。

その式変形で出てきた⑥も⑦も,方程式ですね。⚠️

変形の中で出てくる方程式は,解が全部同じであるはず

そして,当然のことですが,
⑤~⑦の方程式は,解が完全に同じでなければいけません。

それはそうですよね。

それが保証されているからこそ,
⑦を見て,それが方程式⑤の解だと
すぐに判断できるのです。

このように,方程式を変形するときは,
途中で出てくる方程式がもとの方程式と
同じ解を持つようにするのが基本です。

方程式の同値変形

この例では,⑤から⑥,⑥から⑦と,
2回の式変形がありました。

そして,それらはどちらも,
方程式の解を変化させない式変形でした。

実は,このような式変形には名前があって,
どう変形へんけいと呼ばれています。

高校数学の教科書にもほとんどらない用語ですが,
このテーマについて考えるには便利なので,
この記事ではこの用語を使いたいと思います。

クイズ内の式変形は,解が増えたり減ったりしていることがまずい

クイズで紹介した式変形のまずい点は,
方程式を変形する間に,
解が増えたり減ったりしていることです。

もともと解きたい方程式は①ですが,
それを②,③,④と次々に変形しています。

当然,方程式①,②,③,④は,
解が同一でなければなりません。

しかし,実際にはそうなっていませんね。

方程式①を普通に解けば $x=2$ ですが,
方程式②は2次方程式になっていて,
解は $x=1,\ 2$ です。

そして,③の解は $x=1$ です。

教科書で教えている方程式の変形

中1数学の教科書では,等式の性質として,
次のようなことが書かれているはずです。

  • $A=B$ のとき,$A+C=B+C$ が成り立つ。
  • $A=B$ のとき,$A-C=B-C$ が成り立つ。
  • $A=B$ のとき,$AC=BC$ が成り立つ。
  • $A=B$ のとき,$\dfrac{A}{C}=\dfrac{B}{C}$ が成り立つ。(ただし,$C$$\,\neq\,$$0$)

そして,これらの性質を利用して,
方程式を変形しましょうと教えています。

この中に,同値変形でない式変形がある

しかし,ここにげた性質に当てはまる式変形の中で,
同値変形でない式変形があるのです。

それはどのような式変形のことか,分かるでしょうか。

すぐに答えを書いてしまいますが,
「$A=B$ のとき,$AC=BC$ が成り立つ」に落とし穴があります。

もちろん,同じ数 $C$ を両辺にかけても
等号が成立するというこの性質は,
$A,\ B,\ C$ の値が何であっても成り立ちます。

ただし,その式変形は,$C=0$ であるときは,
同値変形ではありません。

例えば,$x-2=0$ という等式は,
$x=2$ のときにしか等号が成立しませんが,
両辺に $0$ をかけると,$0=0$ になります。

$0=0$ は,$x$ の値によらず成立する等式ですから,
これを無理やり方程式と考えて解をべるなら,
「$x$ は任意の数(どんな数でもよい)」となります。

つまり,解が変化してしまったことになり,
同値変形ではないと言えるのです。

方程式を解くときに,
こんな式変形を試す人はいないので,
教科書ではわざわざ指摘しないだけです。

$\;0\;$に等しい可能性がある式を両辺にかける変形は,同値変形ではない

さて,最初に出したクイズでは,
$x-2=0$ …… ① の両辺に $x-1$ をかけて,
$(x-2)(x-1)=0$ …… ② に変形しています。

$x-1$ は,$x$ の値次第で $0$ になる可能性がある式です。

そのため,「両辺に $x-1$ をかける」という式変形は,
同値変形ではありません。

実際,①と②には,次のようなちがいが生じています。

  • ①は,$x-2$ が $0$ に等しいときだけ
    等号が成り立つ等式である。
  • ②は,$x-2$ が $0$ に等しくなくても,
    $x-1$ が $0$ に等しければ
    等号が成り立つ等式である。

つまり,①と②で,等号が成り立つための条件が
変わってしまっている
のです。

従って,このような式変形は,
方程式の解法としては使えません。

実際に間違えそうな例

とは言っても,$x-2=0$ の両辺に
$x$ の式をかける人なんてまずいないし,
意識していなくても問題ないのでは,
と思う人もいるでしょう。

それは,そうでもありません。
次の例題をご覧ください。

例題

方程式 $\dfrac{x^2+4x}{x^2+3x-18}=\dfrac{5x+6}{x^2+3x-18}$ を解きなさい。

この例題は,何の説明もなく出されたら,
引っかかる人がかなりいると思います。ℹ️️

両辺に $x^2+3x-18$ をかけて,
 $x^2+4x=5x+6$

整理すると,
 $x^2-x-6=0$
 $(x+2)(x-3)=0$

よって,解は $x=-2,\ 3$

これではだめです。
もとの方程式に,$x=3$ は代入できないからです。ℹ️

従って,この例題に対する正しい答えは,
「$x=-2$」となります。

このようなことが起きてしまった原因は,
「両辺に $x^2+3x-18$ をかける」が
同値変形でないことです。

$x$ の値次第で $0$ になる可能性がある
$x^2+3x-18$ を両辺にかけたため,
もとの方程式と解が一致しない方程式が
出てきてしまったわけです。

検討したい式変形

次の変形は,いずれも,
等号が成り立つ等式に対して行えば,
等号が成り立つ別の等式を作ることができる式変形です。

  • 両辺に同じ文字式を足す
  • 両辺から同じ文字式を引く
  • 両辺に同じ文字式をかける
  • 両辺を同じ文字式でわる
  • 両辺を2乗する
  • 両辺の逆数をとる

他にも考えられますが,
ひとまずこれらに当てはまる式変形のうち,
同値変形でないものを探してみてください。

さらに,次のようなことを同時に考えてみるとよいでしょう。

  • 同値変形になる式変形とならない式変形の区別のしかた
  • 実際に方程式の解が変わってしまう例ℹ️
  • 方程式を解くときに
    間違えないようにするための対策
  • 連立方程式に対する考え方

注意点

中学生にとっては少し難しいテーマ

このテーマは,中学生が解明を目指すには
少し難しいと思います。

中学生の自由研究としては,
一見すると問題のない方程式の変形なのに,
途中で解が変わってしまうような例を
できるだけたくさん見つけるといった方針でも
十分でしょう。

そして,見つかった例について,
解が変わってしまう理由を説明できると
なお良いと思います。ℹ️

数学の得意な高校生なら,しっかり解明することも可能

数学の得意な高校生なら,どのような法則で
解が消えたり生じたりしてしまうのかまで
迫れると思います。

しかし,もう的な解明ℹ️️にこだわって
時間をかけすぎるのも良くないので,
無理をする必要はありません。

ただ,同値変形とそうでない変形の区別がついていると,
今後様々な方程式を解く上で役に立つことがあるので,
できる範囲でがんる価値はあると思います。ℹ️️


最後まで読んでいただきありがとうございます。
参考になれば幸いです。

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