【入社試験案】高校数Ⅰ|式の値

前ページのあらすじ

前ページでは,高校数学Ⅰの式の値に関する問題と解説を提示し,
手直しすべき点がないかを検討していただくという
入社試験の案を示しました。

本格的な検討の前に

解くのは簡単だが,作問するとなると油断できない

前ページで題材として示したのは,
高校数学の序盤でよく見られるタイプの易しい問題です。
高校時代に数学を苦手としていなかった人ならば,
解くのに苦労するような問題ではないでしょう。

しかし,作問するとなると,注意すべき点が結構あり,
油断できない問題です。

問題・解説再掲

前ページで掲出した問題・解説例は次の通りです。

問題(入社試験の題材)
   にあてはまる数を答えなさい。

 $a>0,\ a+\dfrac{1}{a}=-1$ であるとき,$a^2+\dfrac{1}{a^2}=\ $  

♣ 解説 ♣

\begin{eqnarray*}
\left(a+\dfrac{1}{a}\right)^2&=&a^2+2 \cdot a \cdot \dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{a^2}\\[0.4em]
&=&a^2+\dfrac{1}{a^2}+2
\end{eqnarray*}

仮定より,$a+\dfrac{1}{a}=-1$ であるから,

\begin{eqnarray*}
a^2+\dfrac{1}{a^2}&=&\left(a+\dfrac{1}{a}\right)^2-2\\[0.4em]
&=&-1^2-2\\[0.4em]
&=&-1
\end{eqnarray*}

それでは,検討を開始しましょう。

明らかな誤記

内容を検討する前に,解説文に明らかな誤りがありますね。

もちろん,教材に誤りが残っていてはいけませんので,
訂正しておきます。

♣ 指摘ポイント1 ♣ 

「仮定より,~」の後の式変形において,
第3辺の「$-1^2-2$」は,$\boldsymbol{(-1)^2-2}$と表記するべき。

理由は説明不要でしょう。

誤記の訂正だけでよいか

では,誤りを正した問題文と解説文を改めて見てみます。

問題(入社試験の題材)
   にあてはまる数を答えなさい。

 $a>0,\ a+\dfrac{1}{a}=-1$ であるとき,$a^2+\dfrac{1}{a^2}=\ $  

♣ 解説 ♣

\begin{eqnarray*}
\left(a+\dfrac{1}{a}\right)^2&=&a^2+2 \cdot a \cdot \dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{a^2}\\[0.4em]
&=&a^2+\dfrac{1}{a^2}+2
\end{eqnarray*}

仮定より,$a+\dfrac{1}{a}=-1$ であるから,

\begin{eqnarray*}
a^2+\dfrac{1}{a^2}&=&\left(a+\dfrac{1}{a}\right)^2-2\\[0.4em]
&=&(-1)^2-2\\[0.4em]
&=&-1
\end{eqnarray*}

これで,誤記や計算ミスなどの明らかな誤りはなくなりましたが,
このまま教材に載せてよいのかどうか。

その検討過程の一例を,以下に示していきます。

前提条件の矛盾

不自然な点

はじめに,この問題文と解説文について,
不自然だと思っていただきたい点が2つあります。

  1. 問題文に $a>0$,$a+\dfrac{1}{a}=-1$ とあるが,
    $a>0$ のとき,$\dfrac{1}{a}>0$ であるから,
    $a+\dfrac{1}{a}>0$ となるはず。
    つまり,問題文の前提条件は成立しえない。
  2. 結論が $a^2+\dfrac{1}{a^2}=-1$ となっているが,
    $a$ が $0$ でない実数であるなら⚠️
    $a^2>0$,$\dfrac{1}{a^2}>0$ より,$a^2+\dfrac{1}{a^2}>0$ となるはず。
    つまり,$\boldsymbol{a^2+\dfrac{1}{a^2}}$ の値が $-1$ であるはずがない。

これだけ不自然な点があるなら,
そのまま出題するのはまず不可とするところです。

そこで,これらの不自然さを解消するための策を
探っていきます。

次ページの内容

次ページでは,本格的な検討に入ります。

その中で,安易で無意味な解決策おちいる例も取り上げます。

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