前ページのあらすじ
前ページでは,高校数学Ⅰの式の値に関する問題と解説を提示し,
手直しすべき点がないかを検討していただくという
入社試験の案を示しました。
本格的な検討の前に
解くのは簡単だが,作問するとなると油断できない
前ページで題材として示したのは,
高校数学の序盤でよく見られるタイプの易しい問題です。
高校時代に数学を苦手としていなかった人ならば,
解くのに苦労するような問題ではないでしょう。
しかし,作問するとなると,注意すべき点が結構あり,
油断できない問題です。
問題・解説再掲
前ページで掲出した問題・解説例は次の通りです。
$a>0,\ a+\dfrac{1}{a}=-1$ であるとき,$a^2+\dfrac{1}{a^2}=\ $
\begin{eqnarray*}
\left(a+\dfrac{1}{a}\right)^2&=&a^2+2 \cdot a \cdot \dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{a^2}\\[0.4em]
&=&a^2+\dfrac{1}{a^2}+2
\end{eqnarray*}
仮定より,$a+\dfrac{1}{a}=-1$ であるから,
\begin{eqnarray*}
a^2+\dfrac{1}{a^2}&=&\left(a+\dfrac{1}{a}\right)^2-2\\[0.4em]
&=&-1^2-2\\[0.4em]
&=&-1
\end{eqnarray*}
それでは,検討を開始しましょう。
明らかな誤記
内容を検討する前に,解説文に明らかな誤りがありますね。
もちろん,教材に誤りが残っていてはいけませんので,
訂正しておきます。
「仮定より,~」の後の式変形において,
第3辺の「$-1^2-2$」は,「$\boldsymbol{(-1)^2-2}$」と表記するべき。
理由は説明不要でしょう。
誤記の訂正だけでよいか
では,誤りを正した問題文と解説文を改めて見てみます。
$a>0,\ a+\dfrac{1}{a}=-1$ であるとき,$a^2+\dfrac{1}{a^2}=\ $
\begin{eqnarray*}
\left(a+\dfrac{1}{a}\right)^2&=&a^2+2 \cdot a \cdot \dfrac{1}{a}+\dfrac{1}{a^2}\\[0.4em]
&=&a^2+\dfrac{1}{a^2}+2
\end{eqnarray*}
仮定より,$a+\dfrac{1}{a}=-1$ であるから,
\begin{eqnarray*}
a^2+\dfrac{1}{a^2}&=&\left(a+\dfrac{1}{a}\right)^2-2\\[0.4em]
&=&(-1)^2-2\\[0.4em]
&=&-1
\end{eqnarray*}
これで,誤記や計算ミスなどの明らかな誤りはなくなりましたが,
このまま教材に載せてよいのかどうか。
その検討過程の一例を,以下に示していきます。
前提条件の矛盾
不自然な点
はじめに,この問題文と解説文について,
不自然だと思っていただきたい点が2つあります。
- 問題文に $a>0$,$a+\dfrac{1}{a}=-1$ とあるが,
$a>0$ のとき,$\dfrac{1}{a}>0$ であるから,
$a+\dfrac{1}{a}>0$ となるはず。
つまり,問題文の前提条件は成立しえない。 - 結論が $a^2+\dfrac{1}{a^2}=-1$ となっているが,
$a$ が $0$ でない実数であるなら ,
$a^2>0$,$\dfrac{1}{a^2}>0$ より,$a^2+\dfrac{1}{a^2}>0$ となるはず。
つまり,$\boldsymbol{a^2+\dfrac{1}{a^2}}$ の値が $-1$ であるはずがない。
これだけ不自然な点があるなら,
そのまま出題するのはまず不可とするところです。
そこで,これらの不自然さを解消するための策を
探っていきます。
次ページの内容
次ページでは,本格的な検討に入ります。
その中で,安易で無意味な解決策に陥る例も取り上げます。