- 2025年 8 月中旬の某日,Gemini について加筆しました。
ChatGPT の学習支援機能
今までの ChatGPT
2025年 7 月末頃のことですが,
かの有名なAIチャットである ChatGPT に
学習支援機能が付きました。
今までの ChatGPT は,質問されたら直ちに,
疑問の1つも残らないよう懇切丁寧に説明するのが常でした。
その仕様は,数学の学習相談相手としては
必ずしも適切ではありませんでした。
数学では,教えすぎは良くありません。
理論を教える段階では全部教えてもよいと思いますが,
問題演習段階では,教えすぎると
学習者の思考の機会を奪ってしまいます。
数学の問題演習を行っている学習者への指導では,
指導者は,学習者が独力で解決できない部分だけを補い,
あとは学習者自身の思考に委ねるのが基本でしょう。
ChatGPT に学習支援機能が付いた
そこで,ChatGPT の開発元である OpenAI 社は,
「教えすぎ問題」の改善を試みたようです。
学習者の質問に一度に答えるのではなく,
問答を重ねて徐々に核心に近づいていく機能が
追加されました。
使い方は簡単
質問されたら全部答える従来モードも
もちろん残っていますが,
( ChatGPT にログインした状態で)
次のように2回クリックするだけで,
学習モードに切り替えられます。

- 質問入力欄の左の「+」をクリック
- 「あらゆる学びをサポート」をクリック
数学の学習に使ってみた
数学推論能力にはあまり期待していないが
筆者は,2025年 6 月末に,
AIの数学推論能力の検証結果をまとめた
次の記事を公開しました。
その結果から,筆者は ChatGPT の数学推論能力自体を
あまり信用していません。
しかし,その後力量が上がった可能性も
ないことはないでしょう。
ということで,そんなに期待は持てませんが,
今回 ChatGPT に追加された
学習支援機能にも少しだけ触れてみることにしました。
読者の方が拍子抜けしないよう
あらかじめお断りしておくのですが
この試行はあっけなく終わります。
問答内容
今回,問答の題材にしたのは,
高校数Ⅰの2次関数のグラフです。
座標平面上のグラフ(放物線)のかき方について質問し,
最終的にきれいなグラフを表示してくれれば
まずまずという想定でした。
- 質問した時期は 2025年 7 月末です。
その数日後に GPT-5 がリリースされましたが,
下記の試行はそれより前に行ったものです。
ただ,GPT-5 についても記事の後半で少し触れます。 - 同年8月中旬に確認すると,Gemini にも
類似機能が追加されていたので,試してみました。
こちらについても,記事の後半で触れます。
問答スタート
それでは問答スタートです。
まずはシンプルに,2次関数のグラフのかき方について
教えを請います。

なるほど,2次関数を知っているかどうかの
確認から始めるのですね。
ここは素直に答えてみましょう。

放物線の頂点の座標の求め方として,
「平方完成」と「公式」を挙げてきました。
2次関数のグラフの頂点の公式
ここで「公式」と言われて
ピンとくる高校生はどれくらいいるのでしょうか。
2次関数$\;y=ax^2+bx+c\;$のグラフの頂点の座標を
$\;a\,,\;b\,,\;c\;$で表すことは可能であり,
次のようになります。
$\left(-\dfrac{b}{2a}\,,\;-\dfrac{b^2-4ac}{4a}\right)$
${}$ChatGPT が「公式」と言っているのは
これのことでしょう。
筆者は公式としては覚えていないのですが,
意外に知られているのですかね。
覚えられないほど複雑ではないので,
暗記が負担でない人は覚えて使ってもよいと思います。
ただ,記憶力に自信がない人は,
平方完成の習得に力を入れることをおすすめします。
平方完成の方が重要度が高いのは間違いありませんし,
平方完成に習熟すれば,この公式は覚えていなくても
困る場面は少ないと思いますので。
というわけで,今回は平方完成で
話を進めてもらいます。

$\;y=-x^2+4x-3\;$という2次関数に対し,
マイナスを前に出して整理しなさい
との指示が来ました。
学習者に数式入力を要求する指示が来た
$\;y=-x^2+4x-3\;$のマイナスを前に出して整理。
言いたいことを言い表せていない気もしますが,
ヒントが強くなりすぎないように,
あえて曖昧な表現を選んだのかもしれませんね。
次に何をすればよいか分かっている人には
ある程度伝わる文だと思いますので,
それはひとまずよしとします。
ただ,AIチャットでこの指示をされると
困る学習者が続出するのではないでしょうか。
プレーンテキストによる数式入力が必要な指示ですから。
標準的な高校生あたりだと,
$\;x^2\;$を「x^2」と書くような記法は
知らない人の方が多いでしょうし。
これくらいなら,「x2」などと入力しても
通じるかもしれませんが,
分数とか平方根となるとさらに厳しいと思います。
学習者側は,自身の数学的意図を
いかにしてAIに伝えるかで
相当な時間と神経を使ってしまいます。
学習相談で標準的な学習者に数式入力を求めるなら,
せめて手書き入力が可能な環境を提供する必要があるでしょう。
おそらく,現在の ChatGPT の仕様でも,
手書きした画像を読み込ませれば
意思疎通が可能だと思いますが,
それはそれで,そのような操作が苦手な学習者には
負担が大きいと思います。
ここで1つ,わざと間違えてみる
学習者にとっての数式入力の難しさには
ひとまず目をつぶりまして,
AI側の指示に応答することにしましょう。
$\;y=-x^2+4x-3\;$のマイナスを前に出して
整理しなさい,でしたね。
この段階でどの程度まで式変形を進めることを
AI側が期待しているのか定かではありませんが,
最も控えめに「$\;y=-(x^2-4x)-3\;$」として,
次の解説を待ってみましょうか。
でもそろそろ,ChatGPT が
学習者の間違いにどう対処するのかを
見てみたい気がしてきました。
そこで,今回は
$\;y=-(x^2+4x)-3\;$
という誤答を入力してみます。
${}$ChatGPT が間違いを指摘してきたら,白々しく
「あっすみません,間違えました」と言って訂正し,
話を進めるというシナリオです。
さて,わざと間違えた結果は次の通りでした。

嘘でしょ? これ気づかない??
わざと気づかないふりをして指導を進める
高等テクニックとかじゃないですよね。
仮にそうでも,「完璧です」などと
言い切るのはNGだと思います。
ちなみに,筆者が指導者側なら,カッコを外して
もとの式に戻るかを確かめるよう促すでしょうか。
この間違いを指摘してくれないようでは,
数学の相談相手としては不適格でしょう。
本当はもっと問答を重ね,
どのように正解に導いてくれるのかを見るつもりでしたが,
これ以上問答を続ける意味が感じられなかったので,
新機能の腕試しを終えることにしました。
全体のスクリーンショットはこちら ⇒ ChatGPT 学習支援
当記事は,学習支援機能で色々試して
特に悪かった結果を紹介しているのではありません。
最初に思いついた題材(2次関数のグラフ)で
1回だけ試した結果がこうだったということです。
あまり期待はしていなかったけれども
熟考機能オフとはいえ…
前述のように,筆者は,2025年 6 月末に,
AIの数学推論能力の検証結果をまとめた
次の記事を公開しました。
この記事では,
熟考機能オフの ChatGPT を ChatGPT-N ,
熟考機能オンの ChatGPT を ChatGPT-T と呼び,
別枠で数学推論能力検証に参加してもらいました。
その結果は,やはりと言うべきか,
ChatGPT-T(熟考機能オン)の方が
ChatGPT-N(熟考機能オフ)に比べて
だいぶ好成績でした。
ちなみに,筆者が熟考機能と呼んでいる機能は,
ChatGPT では次の手順でオンにできます。

- 質問入力欄の左の「+」をクリック
- 「より長く思考する」をクリック
これをオンにすると,質問に対して時間をかけて考え,
より高い精度で回答できるようになります。
前述の記事の検証でも,
熟考機能の効果は確かにありました。
ただし,「あらゆる学びをサポート」(学習支援機能)と
「より長く思考する」(熟考機能)は,
同時には有効化できないようです。
つまり,ChatGPT の学習支援機能の数学推論能力は,
ChatGPT-N (熟考オフ)相当であると考えて
間違いないでしょう。
前述の検証記事における ChatGPT-N(熟考オフ)は
かなり低い成績でしたから,
今回の学習支援機能も
あまり期待はしていなかったのですが,
想像よりはるか手前で
つまずいてしまった印象でした。
改善案:穴埋め式で問うのはどう?
回答の正確性に関しては ChatGPT をはじめとする
AIたちに頑張ってもらうしかありませんが,
質問の形式について1つ改善案があります。
それは,
というものです。
今回 ChatGPT の学習支援機能を使ってみた限りでは,
AIから学習者への問いは,
その問いの文をしっかり読み解かないと
答えられないものが多いように感じました。
例えば,先ほどの事例紹介で出てきた次の場面。

これは,やや曖昧さが残る指示だと思います。
ヒントが強くなりすぎないように
あえて曖昧さを残している可能性もありますが,
どこまで変形を進めた式を答えるべきかで
迷う学習者も少なくなさそうです。
そこで穴埋め式の提案です。
筆者がAI側であれば,まず,
学習者が自力で平方完成できそうなら
その結果を入力するよう促しますかね。
そして,学習者から「できない」という回答が来た場合は,
次のように問いかけると良いと思います。
これなら,学習者が何を答えるかで
迷う確率はかなり低いでしょう。
なお,正解は$\;x^2-4x\;$ですが,
学習者が正解した場合は,
例えば次のように続けます。
これと同じ内容を空欄なしで問おうとすると,
やや難解な文章になってしまいそうな気がします。
もちろん,毎回穴埋めにする必要はありませんが,
穴埋め形式によって学習がスムーズになる場面は
多々あるはずです。
このような対応がAIにとって
難しいのか簡単なのか筆者には分かりませんが,
難しくないなら,この方向での改良も一案かと思います。
まとめ
数学の学習で使うのはまだ早い
学習支援機能がリリースされた ChatGPT ですが,
現時点(2025年 8 月)では,数学の学習相談相手としては,
とてもとてもおすすめできる状態ではありません。
筆者は,最近世間で蔓延する
という風潮に危機感を抱いています。
賢いAIなら使ってもよいと思いますが,
数学においてはまだ十分に賢くないですから。
しつこくて恐縮ですが,下記の記事で示した通り,
現代のAIは数学の難問を解けることがある反面,
結構な確率でつまらないミスをします。
そして,間違った理論や推論を,
さも正しいかのようにとうとうと語るのです。
また,今回試した学習支援機能においては,
学習者の間違いに正しく反応できない場面が見られました。
繰り返しになりますが,
AIチャットを数学の学習に使うのはまだ早いです。
児童生徒の保護者や指導者の方には,
大切な我が子や教え子をAIの迷回答で惑わせることがないよう,
現時点では使用を控えさせることを強くおすすめします。
今後に期待はする
しかし一方で,今後急速に進歩していくのは
確実なのでしょう。
AIチャットの正確性や利便性を,
数学指導を安心して任せられるほどまで高めるのは
容易ではないでしょうが,不可能でもないと思うので
期待して見守りたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
参考になれば幸いです。


