この記事では,三角関数の「2倍角の公式($\,\sin,\;\cos\,$)」を解剖し,
覚え方や思い出し方などについて考えていきます。
「2倍角の公式($\,\sin,\;\cos\,$)」の概要
\begin{eqnarray*}
\sin 2\alpha=2\sin\alpha\cos\alpha\ \cdots\ \text{①}
\end{eqnarray*}
\begin{eqnarray*}
\cos 2\alpha&=&\cos^2\alpha-\sin^2\alpha&\ &\cdots\ \text{②}\\[0.4em]
&=&2\cos^2\alpha-1&\ &\cdots\ \text{③}\\[0.4em]
&=&1-2\sin^2\alpha&\ &\cdots\ \text{④}
\end{eqnarray*}
公式の意味・使い道
$\alpha$ の三角関数値である $\sin\alpha,\ \cos\alpha$ から,
$2\alpha$ の三角関数値である $\sin 2\alpha,\ \cos 2\alpha$ を
求めるための公式です。
角が $2$ 倍だから三角関数値も $2$ 倍といった
単純明快な関係ではないものの,
それほど複雑でない式で値の関係が表せることが分かります。
学習事項としての評定
総合評価
有用性
学習への影響
記憶補強の難しさ
丸暗記の必要性
分析詳細
有用性 評価5
数学Ⅱの【三角関数】の単元では,
問題を解く際にも,他の公式を導く際にも,
非常によく使われます。
他単元での利用も幅広く,
数学Ⅲの【極限】【微分】【積分】や,
数学Cの【複素数平面】【極座標】【2次曲線】 で,
この公式はよく利用されます。
問題を解く上でも,教科書を読み進める上でも,
欠かせない公式です。
学習への影響 文系4.5 理系5
「有用性」の項目で説明した通り,
数学Ⅱの【三角関数】の単元ではもちろんのこと,
数学Ⅲや数学Cの各単元でも
しばしば利用される公式です。
特に,数学Ⅲの【微分】【積分】では,
この公式を使いこなせないと,
解ける問題が何割か減るくらいの影響が出ると思います。
数学Ⅱを学ぶ段階で完全にマスターしたい公式です。
記憶補強の難しさ 評価2
この2倍角の公式は,
加法定理と記憶を補完しあえる関係です。
【三角関数】を学び始めた段階で,
加法定理を覚えるのに苦労する人は多いでしょう。
\begin{eqnarray*}
\sin(\alpha+\beta)&=&\sin\alpha\cos\beta+\cos\alpha\sin\beta&\ &\cdots\ \text{⑤}\\[0.4em]
\sin(\alpha-\beta)&=&\sin\alpha\cos\beta-\cos\alpha\sin\beta&\ &\cdots\ \text{⑥}\\[0.4em]
\cos(\alpha+\beta)&=&\cos\alpha\cos\beta-\sin\alpha\sin\beta&\ &\cdots\ \text{⑦}\\[0.4em]
\cos(\alpha-\beta)&=&\cos\alpha\cos\beta+\sin\alpha\sin\beta&\ &\cdots\ \text{⑧}
\end{eqnarray*}
加法定理も2倍角の公式も,
丸暗記した方が良い公式であることは
間違いありません。
しかし,片方の記憶が薄れてきた時に,
その記憶をもう片方の記憶から取り戻せるというのは,
大きな安心材料になるはずです。
公式の導き方:[加法定理]→[2倍角の公式]
加法定理の記憶がはっきりしていれば,
2倍角の公式を導くのは簡単です。
特に,$\sin 2\alpha=2\sin\alpha\cos\alpha$ …… ① は簡単です。
等式⑤の $\beta$ に $\alpha$ を代入するだけですから。
$\cos 2\alpha=\cos^2\alpha-\sin^2\alpha$ …… ② も,
同様に簡単です。
等式⑦の $\beta$ に $\alpha$ を代入すれば②になります。
③と④はもう一手間かかる
注意するべき点としては,
$\cos 2\alpha=2\cos^2\alpha-1$ …… ③ と
$\cos 2\alpha=1-2\sin^2\alpha$ …… ④ は,
加法定理だけでは出てこないことが挙げられます。
これらを導くには,加法定理から②を導いた上で,
$\sin^2\alpha=1-\cos^2\alpha$ や $\cos^2\alpha=1-\sin^2\alpha$ を
代入するのが最短の方法になると思います。
ですので,$\cos 2\alpha$ の公式は,$\sin 2\alpha$ に比べて,
忘れ方によっては思い出すのに時間がかかるという意識を
持っておくと良いかもしれません。
とは言え,加法定理から2倍角の公式を導くのは
さほど難しくありません。
学習時に2倍角の公式を忘れてしまったら,
教科書等で確認する前に,
ぜひ,加法定理から導き直すようにしてください。
記憶確認の方法:[2倍角の公式]→[加法定理]
逆に,2倍角の公式をしっかり覚えている場合,
加法定理の記憶に自信がなくなっても,
その記憶を確認する方法があります。
加法定理の記憶に自信がなくなると言っても,
真剣に丸暗記を試みたのであれば,
影も形も出てこないことはないでしょう。
少なくとも,加法定理の4つの等式⑤~⑧について,
次のようなイメージは残っていると思います。
- いずれの等式の右辺でも,
$\sin$ と $\cos$ が2回ずつ出てくる。 - いずれの等式の右辺でも,
$\alpha$ と $\beta$ が交互に2回ずつ出てくる。 - ⑤と⑥の右辺の違いは,
真ん中の記号がプラスかマイナスかだけである。
⑦と⑧についても同様。
さて,例えば,⑦や⑧の右辺の真ん中の記号が,
$+$ だったか $-$ だったかと,
自信を持てなくなったとします。
つまり,記憶が,
$\cos(\alpha+\beta)=\cos\alpha\cos\beta\;\mathblankdot\;\sin\alpha\sin\beta$
となっていて,$\mathblankdot$ に入る加法・減法の記号で
迷っている状態です。
こんな時は,記憶の式の $\beta$ に $\alpha$ を代入して,
2倍角の公式を作ってみるとよいです。
$\cos(\alpha+\alpha)=\cos\alpha\cos\alpha\;\mathblankdot\;\sin\alpha\sin\alpha$
つまり,
$\cos 2\alpha=\cos^2\alpha\;\mathblankdot\;\sin^2\alpha$
ここで,2倍角の公式の記憶がはっきりしていれば,
$\mathblankdot$ に入る記号は $-$ であると判断できるわけです。
この方法は,加法定理の記憶がもう少し崩れていても
通用すると思います。
加法定理の記憶に自信がなくなったら,
教科書等で確認したりする前に,
ぜひ試してみてください。
丸暗記の必要性(総合評価) 文系4.5 理系5
2倍角の公式($\sin,\;\cos$)は,
使用頻度が極めて高いので,
丸暗記するべき公式だと思います。
しかし,加法定理から比較的簡単に導けるので,
記憶が薄れた時の対処法はあると
考えてよいでしょう。
ただ,前述の通り,
$\cos 2\alpha=2\cos^2\alpha-1$ …… ③ と
$\cos 2\alpha=1-2\sin^2\alpha$ …… ④ は,
加法定理だけでは出てこないことに注意が必要です。
加法定理を出発点として③や④を導くには,
$\sin^2\alpha+\cos^2\alpha=1$ を併用することになるので,
③や④を忘れた場合,導き直すのに
少し時間がかかると思います。
使用頻度が非常に高いことを考えると,
できるだけ記憶を保持したい公式です。
まとめ:『2倍角の公式($\boldsymbol{\,\sin,\;\cos\,}$)』の特徴
高校数学Ⅱで学ぶ【三角関数】の「2倍角の公式」については,
次のようなイメージを持っておくとよいでしょう。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
参考になれば幸いです。